高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学 その6(後編)
記事が長くなったので分割しました。
前編はこちら。
挨拶は省略して、早速内容の方に入ります。
※今回はグラフを用いた説明が多くなっていますが、片手間のブログでは素材を用意しきれないためほぼ全て省略しています。本当に学びたい人はテキストを直接参照してください。
IS-LM分析
この2つの曲線を重ね合わせると、1つの交点が求まる。これが財市場と貨幣市場の両方を均衡させるYとrの組み合わせである。
経済政策はこのグラフにどのような影響を与えるのか。
財政政策:財の市場
→政府支出G、消費C、投資Iに働きかけ、Yを増加させる。
→IS曲線が全体として右にシフトする。
金融政策:貨幣の市場
→マネタリーベースを増やし、利子率rを下げる。
→LM曲線が全体として右にシフトする。
……ここ図だと「右にシフト」っぽく描かれてるけど、「rを下げる」なら「下にシフト」じゃないのかなー。どこかで勘違いしてる?
開放経済条件下で、3つのシナリオの分析を行ってみよう。
①金融政策により、利子率rを下げる。
→LM曲線が右にシフトする。新しい均衡点E1は右下に動く。
→利子率rが下がるので、より高い利回りを求めて資本は外国市場に移動する。
→円安ドル高であり経常収支と資本収支は表裏一体の考え方からも輸出が増え、総需要も増える。
→財の需給の均衡によりIS曲線が右にシフトする。新しい均衡点E2は右上に動く。
→最終的(E2)にYは大きく増加し、rはあまり変化しない。
②財政政策により、Yを増やす。
→IS曲線が右にシフトする。新しい均衡点E1は右上に動く。
→利子率rが上がるので、より高い利回りを求めて資本が日本市場に入ってくる。
→円高ドル安で貿易収支減、総需要が減少する。
→財の需給の均衡によりIS曲線が左にシフトする。新しい均衡点E2は左下に動く。
→最終的(E2)にYもrもほとんど変化しない。
③各国協調しての財政政策により、Yを増やす。
→IS曲線が右にシフトする。新しい均衡点E1は右上に動く。
→利子率rは上がるが、世界中で同じように上がっているので資本の移動は起こらない。
→最終的(E1)にYは増加し、rも大きくなる。
土谷英夫「2つのロンドン会議」日本経済新聞2009年3月23日
変動相場制下の財政拡大は金利と為替相場を押し上げ輸出を減らし、効果が薄いとされる。だが、これは一国が単独で行う場合で、ケインズが勧めたように各国が同時にやれば、効果の漏れだしは相殺される。
(強調は筆者)
さらにシナリオ③に金融政策を加えてみると、
③'各国が協調しての金融政策により、利子率rを下げる。
→LM曲線が右にシフトする。新しい均衡点E2'は右下に動く。
→利子率rの変化は世界中で同じように起こるので、資本の移動は起こらない。
→最終的(E2')にYはさらに増加し、rは下がる(開始時からの変化が小さい)。
このように各国協調下での財政政策と金融政策のコンビネーションは利子率rを大きく変動させることなく国民所得Y(=GDP)を増やすことが出来るのである。
流動性の罠
しかしここに思わぬ落とし穴が待っている。
——流動性の罠、これはどのような現象を指しているのだろうか。
=金利が非常に低い状態になったとき、ごく僅かな利子を期待するよりも使い勝手のいい現金のまま手元においておこうとする傾向が強まる(流動性選好)。
このときいくら流通する通貨量(マネタリーベース)を増やしたとしても、溜め込むばかりで投資に回らないため経済を刺激する効果を得られない。
→しかもこのとき「低金利=債券価格高」ということなので、市場には「これから必ず値下がりする債券」しか出回っていない。ますます債券購入(=投資)への意欲が弱まる。
→「流動性の罠」に嵌ってしまった場合、LM曲線の傾きはほぼ水平になってしまう(rとYが連動しない)。そのため金融政策を発動しても所得Yに影響を与えることが出来なくなる。
⇒「市場(家計・企業)の気持ち」に原因があるので、数字をいじってもどうすることも出来ないのが厄介。
総括としてのケーススタディ:アベノミクス
アベノミクスは次の3つの政策からなる(3本の矢)。
①「大胆な」金融政策
②「機動的な」財政政策
③「民間投資を喚起する」成長戦略
そのそれぞれがどのように経済状況を改善するのか確認していく。
①「大胆な」金融政策
=マネタリーベースを2年間で倍増させ、年間2%の物価上昇を実現する(2012:138兆円→2014:270兆円)。
→「金利を下げる」というスタンダードな政策を取れないので、そもそもお金の供給量を(それもかつてない規模で)増やして経済全体を力技で動かす、という狙い。
→日銀は経済全体のお金(マネーストック)を直接動かす力はない。しかしマネタリーベースが徐々にマネーストックを動かすことは過去のデータから認められている。
→アメリカではすでに前例がある。リーマンショック後の大規模金融緩和によりマネタリーベースを5年弱で3.5倍に増やした。株価はリーマンショック後半年で底をうち、その後一貫して上昇傾向にあるという。
→この時期の異常な円高ドル安はこれが原因。アメリカの中央銀行がひたすらドルを供給し続けたため、流通量の比率がおかしなことになった。
インフレ(物価上昇)はなにをもたらすのか?
→インフレになれば持っている円資産の価値が目減りする。つまり現金を溜め込んでいても徐々に価値が減っていくだけとなる。
→インフレ状況下では投資(債券の購入)に回してその価値が上がることを期待した方が良い。
→「これからもデフレが続く→資産を現金で持っていよう」から「これからはインフレになるに違いない→目減りが始まる前に投資に回そう」に民間の心理を変えさせれば、流動性の罠から抜け出せる。
②「機動的な」財政政策
=平成24年から25年度にかけて、総額106兆円にも上る予算を組み需要を下支えする。
→量的緩和をしてもお金を使わない民間に代わり、政府支出(公共事業)を増やすことで経済にお金を流して回させる。
→IS曲線を大きく右にシフトさせ、「流動性の罠」状態(=LM曲線の傾きが水平)から抜け出す。
③「民間投資を喚起する」成長戦略
=まだ具体的な政策とはなっていない?
⇒①も②も、すべては「流動性の罠」から脱出し市場の中で正常にお金が回るようにすることを目的としている。
⇒そのために政府の財政赤字は膨大なものとなっているが、その5(中編)で説明したように単年度の赤字を避ければよい(プライマリー・バランス・ゼロ)。
⇒経済が成長すればインフレにより債務の負担も減り、税収も増える。
⇒社会保障費の伸びが避けられない以上、名目GDPは何としても伸ばし続けなければならない。
⇒つまり経済政策における正攻法中の正攻法。
まとめれば、「流動性の罠」という異常な状態にある日本経済は、そこから脱出するために同じように常識外の方法を取る必要があり、今のところそれは上手く行っている、となるだろうか。
【今回の三行まとめ】
- 経済政策には財政政策と金融政策の2種類があり、その効果を検討するメジャーな方法としてIS-LM分析という手法がある。
- 利子率rや総需要Yに働きかけることにより財と貨幣双方の需給均衡点を移動させることによって政策目的を実現するが、「流動性の罠」と呼ばれる状態になると伝統的な手法が通用しなくなる。
- アベノミクスは「流動性の罠」から抜け出すために常識外の政策を打ち出し、今のところ上手く行っている。
……こんなところか。IS-LM分析のところを丁寧に記述したから時間がかかったけど、ポイントは明確。
【今回の宿題】
……いつもの倍の分量を一気やったのでさすがに疲れました。お昼時には終わるはずが、もう午後二時を過ぎています。
最後ちょっと駆け足で雑になってしまったのは反省材料。
まあ休日の使い方としては悪くないということで。
一応これでこのテキストの本文は終わりですが、全体のまとめと宿題への回答を数回やろうと考えています。
それでは
KnoN(合計210min)