ストーリーメーカー その2
休み明けで本格始動です。もう五月も上旬が終わるのか……。
毎日を無駄に過ごしているつもりはないけれど、時間の流れが早くていろいろと焦ります。
引き続き
ストーリーメーカー 創作のための物語論 (アスキー新書 84)(大塚英志、2008)
の
第二章 物語を構成する最小単位とは何か
をやります。
ストーリーメーカー 創作のための物語論 (アスキー新書 84)
- 作者: 大塚英志
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2008/10/09
- メディア: 新書
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第二章 物語を構成する最小単位とは何か
「物語には「文法」に似た一定の規則性がある」という考え方が成立したのは1920年代のソビエト・ロシアであった。
→ウラジーミル・プロップのロシア魔法民話の分類を目指した研究から、物語の「最小単位」について考える。
キャラクターの行動により物語は進行する
プロップは民話を科学的に分類するために、まずそれを構成する「最小単位」を見出し、その組み合わせのパターンによってストーリーを分類する方法を考えた。*1
→最小単位は単独で存在するのではなく、それを複数組み合わせることで新たな意味が生成するところにポイントがある。
⇒情報は他の情報と結びつきたがる。2点あることにより方向性が定まり、見えていないところまで連想されるようになる。
……モンタージュ理論での例(同じカットでも次に繋げるカットによって受ける印象が変化する)は分かりやすかったが、後述する31機能の話の中ではイメージしにくかった。
プロップは自らの発見した物語の最小単位を「機能」、その配列のされ方を「構造」と呼び、その上で「全ての魔法民話は構造上同一のタイプである」と結論づけた。
(⇒魔法民話の<マザー>?)
この「機能」は登場人物(キャラクター)たちの行動によって定義される。
→それぞれの民話において、見かけ上の行動には多様性があっても、例えば「主人公に移動(越境)のための呪具(マジック・アイテム)を与える」という観点で見ると同一の行動(とその担い手)としてまとめることができる。
キャラクターの外面的な属性ではなく、物語の進行に果たす作用を考えたときの分類として8種類、それらのキャラクターが引き起こす行動として31種類の最小単位に分類した。
次節ではそのそれぞれについて詳しく見ていくことにする。
8種の役割、31種の行動
登場人物の「役割」としての分類は次の8種類が挙げられる。
(※説明の都合上、プロップオリジナルの分類ではなく著者が一部修正したものを示す*2)
①主人公="行って帰る"人
②偽の主人公="主人公の手柄を横取りする"人
③敵対者="主人公と対立する"人
④贈与者="マジック・アイテム(もの)を与える"人 →賢者
⑤助手="自分(ひと)を差し出し主人公を助ける"人 →仲間
⑥対象者="主人公と敵対者の目的となる"人 →姫
⑦依頼者="主人公を旅立たせる"人 →王
⑧追跡者="帰還を妨害する"人
これらの「役割としての登場人物」によって担われる行動=機能は次の31種類である。
⇒それらは<発端><旅立ちと戦い><帰還>という3つの大きな段階に分節できる。
<発端>
- 不在=「主人公」または「対象者」の家族の成員の一人が家を「不在」とする。
- 禁止=「主人公」または「対象者」に「禁止」を課す。
- 違反=「主人公」または「対象者」は「違反」する。
- 情報の要求=「敵対者」は「主人公」に「情報の要求」をする。
- 情報入手=「敵対者」は「情報入手」する。
- 策略=「敵対者」は「主人公」または「対象者」に「策略」を仕掛ける。
- 幇助=「主人公」または「対象者」は「敵対者」を結果として「幇助」する。
- 加害あるいは欠如=「敵対者」は「主人公」または「対象者」に「加害」「欠如」を生じさせる。
<旅立ちと戦い> - 派遣=「依頼者」は「主人公」を「派遣」する。
- 任務の受諾=「主人公」は「依頼者」に「任務の受諾」をする。
- 出発=「主人公」は「出発」する。
- 先立つ働きかけ=「贈与者」は「主人公」に「贈与」に「先立つ働きかけ」をする。
- 反応=「主人公」は(「先立つ働きかけ」に対して)「反応」する。
- 獲得=「主人公」は魔法の手段を「獲得」する。
- 空間移動=「主人公」は「獲得」した魔法の手段により「空間移動」する。
- 闘争=「主人公」と「敵対者」は「闘争」する。
- 標付け=「主人公」は「敵対者」または「対象者」から「標付け」をされる。
- 勝利=「主人公」は「敵対者」に「勝利」する。
- 加害あるいは欠如の回復=「主人公」は「加害あるいは欠如」の状態を「回復」させる。
- 帰路=「主人公」は出発してきた場所に戻るため「帰路」につく。
<帰還> - 追跡=「帰路」についた「主人公」を「追跡者」が「追跡」する。
- 脱出=「主人公」は(時に魔法の手段を使って)「追跡者」から「脱出」する。
- 気づかれざる帰還=「主人公」は(追われているため身を隠し)「気づかれざる帰還」をする。
- 偽りの主張=「偽の主人公」が「偽りの主張」をする。
- 難題=「依頼者」は「主人公」に「難題」を課す。
- 解決=「主人公」は「難題」を「解決」する。
- 認知=「依頼者」または「対象者」は「主人公」を(ときに「標付け」により)「認知」する(同一性の証明)。
- 露見=「偽の主人公」の正体が「露見」する。
- 変身=「主人公」は(身を隠してい状態から)「変身」する。
- 処罰=「依頼者」は「偽の主人公」を「処罰」する。
- 結婚ないし即位=「主人公」は「対象者」と「結婚」し、もしくは「即位」する。
プロップがこれらの分類から考察した内容を改めて整理する。
- 昔話の恒常的な不変の要素となっているのは、登場人物の機能である。
- 魔法昔話に認められる機能の数は、限られている。
- 機能の継起順序は、常に同一である。
- あらゆる魔法昔話が、その構造の点では、単一の類型に属する。
→31の機能を(必要に応じて省略したり繰り返したりしながらも)順番通りに発動させることにより物語は生成される。
機能の因果
この31の機能がどのように「構造」をなしているかを、もう少し詳しく検討しよう。
すでにわかるように、機能はそれぞれに幾つか対応している部分がある。それは因果関係をなしており、どちらがかけても物語として閉じない、成立しない。
⇒この「ペア」をきちんと描ききることが、「物語り」の第一歩だといえる。
- 8. 加害あるいは欠如 → 19. 加害あるいは欠如の回復
⇒前回の冒頭でも述べた「欠落したものが回復する」対応である。
極端な話、<発端>のフェイズはすべて「加害あるいは欠如」を発生させるための前振りだと考えても差し支えがない。最初から「加害あるいは欠如」がある物語*3では「9. 派遣」から始まっても良いということである。 - 11. 出発 → 20. 帰路
⇒後者は<帰還>フェイズ全体が対応しているともいえる。
すでに説明した「行って帰る」構造であるので説明は省略。 - 12. 先立つ働きかけ → 14. 獲得
⇒スパンは短いが、これも欠かせない対応である。何か特別なものを得るためには「試練」を乗り越えて、主人公が「それを得るにふさわしいのか」を証明しなければならない。 - 17. 標付け → 27. 認知
⇒後半の「偽の主人公」のくだりにおいて、決定的な証拠として作用する。
ロシア魔法民話ではこの「主人公の同一性の証明」に時間をかけると説明されているが、「ストーリーを面白くするための一捻り(そう簡単には終わらない)」だと考えれば応用が効くかもしれない。 - 23. 気づかれざる帰還 → 29. 変身
⇒やや重要性が落ちる気もするが、一応。
主人公は「追跡」を受け、仮初めの姿に身を隠して帰ってくるため、その正体を明かす段階が必要となる。
【今回の三行まとめ】
- 物語には最小単位としての「機能」があり、それは物語を進行させる登場人物たちの行動として定義される。
- プロップは登場人物の役割を8種類とし、彼らによって担われる31の機能を分類した。
- 機能間の対応が物語の構造となり、きちんと対応が閉じられていなければ物語として成立しない。
【今日の宿題】
- 31機能の中での「それを複数組み合わせることで新たな意味が生成する」ことの現れ方。
……だいぶ具体的な話になってきたのではないでしょうか。
依然から小説のプロットを考えるときに「このキャラは〇〇しないと"物語が閉じない"」というようなことを言っていたのですが、このように「機能の対応の成立」という観点できちんと説明できることがわかり、すっきりしました。
いわゆる「伏線」もこの文脈で議論できるかもしれません。今日は時間がないからやらないけど。
次回はオットー・ランクの『英雄誕生の神話』が底本になるようです。
それでは
KnoN(90min)