KnoNの学び部屋

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ストーリーメーカー その4

 

 

引き続き

ストーリーメーカー 創作のための物語論 (アスキー新書 84)

第四章 世界中の神話はたった一つの構造からなる

をやります。

 

 

第四章 世界中の神話はたった一つの構造からなる

私小説な日本、合理的なハリウッド

 いきなり寄り道的な話題から入る。

 

 たびたび言及してきたように、アメリカ、とくにハリウッドの映画業界においては、シナリオというものは合理的な技術論のもとで開発される対象となっている。

 このエポックメイキングな変化をもたらしたのが『スター・ウォーズ』であり、それがストーリー展開に神話学者のジョセフ・キャンベルの助言を取り入れてからであった。

 

 ハリウッド映画では、「ディベロップメントステージ」と呼ばれるクランクイン以前のシナリオ製作のプロセスがあり、そこには「物語」に関する多くの専門職と彼らによって担われる工程が存在している。

 例えば3DCGで有名なピクサー社では、「絵」をベースとしたストーリー開発*1を重視し、次のようなプロセスを経て練り上げられている。

 

  1. コンセプトアート
    →作品のイメージを規定するためのイラスト(コンセプトアート)が「スタイリスト」によって描かれる。
  2. ストーリースケッチ
    →シナリオ担当の「ストーリーマン」とイラスト担当の「アニメーター」が二人一組のユニットを作り、一つのシーンの情景を練り上げる。演技、セリフ、BGMなどもイメージする。
  3. ストーリーボード
    →ストーリースケッチは一つのシーンに付き複数のユニットが割り当てられる。一通り出揃うとストーリーの展開順に壁に張り出し、ユニットごとにプレゼンをしてより良い流れを検討する。
  4. ストーリーリー
    →多くの修正を経て完成したストーリースケッチを投影しながら、暫定的なアフレコを付して編集する。「脚本」や「絵コンテ」の代わりに実際の映像の原作としてのストーリーリールが完成する。

 

 一方で日本はこの部分(=ストーリー作りのための独立した工程)が弱い、とかねてから指摘されている。

 その原因として、一つには日本では「私小説」という文学の一形態の影響力が大きく、「創作というものは私的な行為でなければならない」という考え方が支配的であるということが挙げられる。

 また戦時下に遡れば、国策として「非ストーリー様式」の映画(記録映画、ドキュメント)が重視され、「ストーリー様式」の映画への導入は戦後の手塚治虫までまたなければならなかった(マンガからのシナリオ輸入)という歴史的な事情も指摘できる。

 

……邦画(あるいはテレビドラマ・アニメを含めて)がオリジナル作品よりも小説やマンガ、ライトノベルなどから原作を引っ張ってき過ぎだとは感じていたが、こういった理由があったとは。そもそも「発想」としてストーリーを共同で練り上げるという考え方が弱いのだろう。だからその作法や手順も整備されていない。

 逆に「ストーリー」の供給元となっている小説・マンガ界で、作家と編集者の間でどのようなディベロップメントのやりとりが行われているか気になるところ。

 

神話を心理学的に解説する

 話を本筋に戻す。

 

 キャンベルは『千の顔をもつ英雄』の中で英雄神話の基本的な構造を示した。

 ランクの『英雄誕生の神話』、あるいはプロップの『昔話の形態学』とことなるのは、その分析がユング派の心理学を基調としたものである点だ。

 

 キャンベルは「英雄神話は人間の自己実現のプロセスと対応している」という発想を前提とし、古今の英雄神話は単一の形式に還元できると考えた。

 そして物語の構造の論理性を心理学的に「解説」した上でストーリーの組み立てを分析している。

→登場人物の「感情」を機能から一切排除したプロップとは対象的。

 

 キャンベルの物語論は次の3幕・17ステップによって構成される。

 

 第一幕 出立

  1. 冒険への召命
  2. 召命の辞退
  3. 超自然的なるものの援助
  4. 最初の境界の越境
  5. 鯨の胎内

    第二幕 イニシエーション
  6. 試練への道
  7. 女神との遭遇
  8. 誘惑者としての女性
  9. 父親との一体化
  10. 神格化
  11. 終局の報酬

    第三幕 帰還
  12. 帰還の拒絶
  13. 呪的逃走
  14. 外界からの救出
  15. 帰路境界の越境
  16. 二つの世界の導師
  17. 生きる自由

 

 次節からはこのそれぞれを解説する。

 

非日常への旅立ち:呪縛と庇護者

1. 冒険の召命

 広い意味での幼年期にある主人公(=「セルフの覚醒」に至っていない)は、「幼年期の終わり」を告げる出来事に遭遇する。

 

2. 召命の辞退

 しかし人間は本能的に変化を拒む。素直には旅立たせず、主人公自身のためらい、あるいは周囲の人間の引き止めにより出立に二の足を踏む。これは「眠り」というモチーフで表現されることもある。

→我が子を目覚めさせたくないという「母性の負の側面」であるとも捉えられる。

 

3. 超自然的なるものの援助

 日常の惰眠へ引き戻される主人公を目覚めさせる存在が現れ、超自然的な力やアイテムを与えて背中を後押しする。

→母性の「庇護者」としての側面の発露であり、身を守る衣類を与えることもある。

 

⇒「こうして運命に導かれて主人公は旅立つのであった」とかいうときの、「運命」が指している内容かもしれない。

 

4. 最初の境界の越境

 「こちら側→向こう側」への越境。「境界線」の存在とそのハードルの高さを象徴する「境界守」が配置される。

 

5. 鯨の胎内

 「向こう側」というのは「(象徴的な意味での)死の世界」であり、主人公は一度死に、再生して「こちら側」に戻ってくる。「再生」のイメージと「母胎」のイメージが重なり合う

→eg. 「キノピオ」はクジラに飲み込まれて人形から人間へと「生まれ変わる」。

 

イニシエーション:試練と成長

6. 試練への道

 主人公の成長を条件づけるための試練が与えられる。

→プロップの31の機能でいうところの(12)先立つ働きかけ(13)主人公の反応(14)魔法の手段の獲得に対応する。

 

⇒直截にいってしまえば、「読者に主人公の成長を納得させる」ために試練が与えられると考えても良い。ここできちんとした試練とそれを乗り越える主人公を示さなければ、読者は成長に納得できない。

 

7. 女神との遭遇

 女神(ヒロイン)と遭遇し、愛されることで主人公が主人公であると(作中的に)証明される。

主人公の魅力はあくまで作中人物を通して、作中人物の視線で説明されなくてはならない。

 

8. 誘惑者としての女性

 主人公は女神と結びつくことで「母殺し」(=母性からの精神的自立)を行い、大人になるための一つ目の条件を達成する。

 

9. 父親との一体化

 もっとも身近な敵である父親と対峙し、それを乗り越える(父殺し)。大人になるためのもう一つの条件が揃う。

→ただし一方的に殺すのではなく、むしろ相互に理解した上で「一体化する」と理解すべき、とのこと。

 

10. 神格化

 母と父を象徴的に「殺す」ことで主人公は成人し、「完全な姿」となる。英雄神話では人間の枠を越え「神」への一歩を踏み出し始める。

→単純に「大人への一歩を踏み出した」「新しい自分への糸口を見つけた」という理解で良い。

→31の機能の(29)変身に対応。

 

11. 終局の報酬

 冒険の結果、天上の世界のアイテム(霊薬、エリクシール)を入手する。これをもって主人公は人間から「神」として崇められる存在になる。

 

日常への帰還:再生と統合

12. 帰還の拒絶

 「向こう側」での冒険を終えた主人公だが、「変化した自分」と「日常」を統合させるためには再び困難が伴う。霊薬の持ち出しを妨害される。

→31の機能の(21)追跡に対応。

 

13. 呪的逃走

 主人公は追っ手を振り払い「向こう側」から脱出するため、呪的なアイテムを利用してそれを退ける。

⇒「越境」のためのコスト、通行料を支払う、と考えても良いか。

→31の機能の(22)脱出に対応。

 

14. 外界からの救出

 主人公は多くの場合自力では脱出しきれない。「こちら側」からの手助けを得て帰還することができる。

 ここで主人公は「向こう側の世界での死」を迎えることで「越境」することができる。

 

⇒足を踏み外し落ちそうになったところで手を掴まれ、「死の世界」から引き上げられる、というイメージ。

 

15. 帰路境界の越境

 外界からの助けを得て、越境(=再生)する。

 

16. 二つの世界の導師

 主人公はある種の「悟り」に向かい、「こちら側」と「向こう側」の両方を知る存在としてそれぞれの価値観を超越した存在へと向かう。

→キャンベルの東洋思想からの影響が見られる。

主人公が周囲から依頼に足る人物(成人)として迎え入れられ、主人公自身の自己実現も完了に向かいつつある状態、として考える。

 

17. 生きる自由

 イニシエーションを乗り越えた主人公は周囲からの承認自己実現を達成し、自由な一人として生きていくことができるようになる。

 

 このようにして得られた「単一神話」は、必ずしも全ての神話が満たす訳ではないいわば「神話のプロトタイプ」である。

 最後に参考として、キャンベルが考えた「行って帰る」円環形の概念図を紹介しておく。

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図1:著者(大塚英志)がジョセフ・キャンベル『千の顔を持つ英雄』(人文書院、1984)より引用したものを再引用

 

 

【今日の三行まとめ】

  • ハリウッドでは「ストーリーづくり」を映画製作の重要な工程と見なしプロセスも洗練されているが、日本ではまだその意識が薄い面がある。
  • キャンベルは英雄神話の構造を心理学的なアプローチで分析し、それを3幕17ステップでまとめた「単一神話」を構想した。
  • 「単一神話」の主題は(イニシエーションをへることによる)主人公の成長であり、「英雄神話は人間の自己実現のプロセスと対応している」という発想が根底にある。

 

【今日の宿題】

  • 特になし

 

……今日は単純に説明する分量が多すぎて自分の意見を差し挟む余裕がなかった。

 それでもプロップの「31の機能」との対応や、ランクの「英雄誕生の神話」と同じような構造をしていることは分かったことでしょう。「行って」「試練を乗り越えて」「帰ってくる」という三段階が重要であり、特に「帰ってくる」部分まで丁寧に描かなければならない、ということですね。

 次回はクリストファー・ボグラー『神話の法則』を底本とした話をします。

 

それでは

 

KnoN(120min)

 

千の顔をもつ英雄〈上〉

千の顔をもつ英雄〈上〉

 
千の顔をもつ英雄〈下〉

千の顔をもつ英雄〈下〉

 

 

 

*1:ディズニー以来のハイウッド・アニメの伝統、らしい