哲学入門 その2
初夏の快晴。
喉の痛みがなかなか収まる気配がないので、午前中に医者に行ってきました。
とりあえず抗生物質で様子見。まあ、予想通り。
この辺りの痛みは全体的なしんどさに繋がるので、早く治ってほしいものです。
引き続き
哲学入門 (ちくま新書)(戸田山和久、2014)
の
第二章 機能
をやります。
第二章 機能
前章では「意味」を自然化するために、「本来の機能」という概念を導入すると良さそうだということを学んだ(ミリカンの目的論的意味論)。
しかしこの「機能」は本書全体のテーマである「存在もどき」の中でも中心的なものであり、「意味」「機能」「目的」は切り離して考えることが出来ない。
本章ではそのような「機能」について、より理解を深めていく。
機能は「存在もどき」たちのハブ
じつは、意味、機能、目的の三つには、あまり気づかれないけれどとても重要な共通点がある。それは〈いまそこにないもの〉あるいはいまそこで現実化されていないことがらにかかわるということだ。
→「本来の機能」概念は、必然的に「機能不全」の状態を想定する。
→ウイルスに対する抗体は、そこにウイルスが存在しなくても、今後決して出会うことがなくても、「〇〇ウイルスに対する抗体」であることに変わりない。そしてその抗体は「誤って」本来攻撃すべきでないもの(他のウイルス、自分自身)を攻撃してしまうこともある。
→〈いまそこにないもの〉へのかかわりは、生命を特徴づける重要な性質
こうして考えると、「機能の自然化(=因果関係への還元)」はかなり大きい射程を持っていると分かる。
→生きものにおける意味類似現象をすべて一斉に自然界に書き込める(バイオセマンティクス)。
→(人間の恣意的なものとみなされがちな)意味と目的を、生物学的カテゴリーとして自然界に位置づけられる。
前回のミリカンの議論をおさらいする。「本来の機能」は表象の意味に限った話ではなく、この大きな目標へのアプローチの一環として位置づけられる。
◯(機能の)起源論的説明(etiologiacal explanation)
=いまそこにあるアイテムの(本来の)機能を定めるのに、そのアイテムがどのようにして生じたかという過去の経緯に言及する。
→そこにそういうアイテムがあるのは、過去にそのアイテムがあることがいい効果をもたらしたから。
この説の有用性を確認するためには、これが「機能」というものの概念分析ではなく、理論的定義であることをはっきりさせなければならない。
これは「そもそも哲学とはなにをすることか」という大きな問いに関わるので、やや脱線気味となるがしっかりと確認しておこう。
哲学者の本分
概念分析
=われわれが普段使っている概念の内容を分析し、その概念の必要十分条件を定式化する作業。分析哲学における主要な方法。
→「そもそも、考えるとはどういうことか?」
=探求されるべき真理は存在せず、われわれの思考の論理的明晰化が哲学の目的であると考える流派。種々の命題を実証的に検討し、論理的に明瞭に記述する。概念を分析して定義を与え、思考実験を通じてその正しさを論証する。
ここでは「すでにわれわれの中に漠然とある概念を、精緻に記述することで明確にする」というスタンスが採用されている。
しかし哲学というものは概念分析だけをしている訳ではない。より包括的・整合的・発展的に物事を説明する理論を構築することが(哲学に限らず学問全体の)営みの目的である。
ものごとをよりうまく説明できるような理論のために、さまざまな概念を定義し直し、提案する。「新しい概念を作る」ことが哲学者と概念との関わり方のあるべき姿である。
こう考えるとミリカンの説が「概念分析ではなく理論的定義」であるということが分かるだろう。
ミリカンは「自然選択説を援用した、より合理的にものごとを説明できる理論」のために機能という概念を理論的に再定義したのである。
理論的定義の善し悪しは作ろうとする理論の内容によって決まる。ミリカンの定義では「機能カテゴリー」を統合的に説明できるという、非常に大きな射程を持っている。
ミリカンvsカミンズ
ミリカンの起源論的説明に対し、ロバート・カミンズは「因果役割的説明」と呼ばれるもう一つの説明を提案した。
◯因果役割的説明
=あるアイテムの機能は、それを含む上位システム全体の働きにおいて、そのアイテムが果たしている役割によって定義される。
→例えば心臓の機能は、循環系という上位システムの中で「血液を循環させる」という因果的機能を担っていることから定義される(メカニズム説明)。
ミリカンはカミンズの定義を二つの点から批判している。
- 機能と目的が結びつけられない
→例えば雲は、水の循環という上位システムの中で「雨を降らせる」という因果的機能を担っているが、雲は雨を降らせる「ために」あるのではない。 - 機能不全を説明する余地がない
→機能不全のために本来の機能を果たせない非典型的なメンバーが、それでもその機能を現に果たせるメンバーと同じ機能カテゴリーに属することが出来るのはなぜかを説明できない。
こうしてみるとカミンズの定義はあまり適切でないように思われる。
しかし理論的定義の試みの中に位置づけて考えてみるならば、そもそもミリカンとカミンズでは定義の理論的目標が異なるということに注意しなければならないだろう。
ミリカン:起源論的説明
→アイテムがある機能や目的をもっている、ということを説明する。
→「自然界にありそでなさそでやっぱりあるものを、モノだけ世界観にできるかぎり統一的に描き込もう」という課題
カミンズ:因果役割的説明
→アイテムがシステムの中で現に何かとして機能している、ということを説明する。
→「水の循環というマクロな現象がどのようなメカニズムで実現されているのかを説明」しようとする課題
一般に対立する学説として取り上げられることの多い両者だが、目的地が異なる並立し得る説であることが明らかになった。
【今回の三行まとめ】
- 「機能」概念は存在もどきたちを体系づける中心的な位置を占める。機能を自然化することにより、生物世界全体における「意味」を説明できるようになる。
- 哲学の主要な方法の一つに概念分析がある。しかし哲学本来の役割を考えるならば、既存の概念を分析することだけでなく、より統一的な理論の構築に役立つ新しい概念を提案することが重要である。
- ミリカンの機能の起源論的説明(目的論的意味論)に対し、カミンズの因果役割的説明が挙げられることがある。しかしこれらはそもそも目標とするところがことなり、目的に応じて使い分ければ良いものである。
【今回の宿題】
- 「機能カテゴリー」の説明を省略
……第一章の焼き直しというか、後半部分の再整理といった印象。分量も多くなく。
「機能は存在もどきのハブ(中核)」ということだが、それだけに細かい話は後ろの個別の話に回されたような印象を受ける。
短い話の割には、説明が蛇行している感覚があって要領よくまとめるのに手間取った。「要約され得ないもの」みたいな感じ。哲学ってそういうもの?
それでは
KnoN(120min)
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