〈私〉をひらく社会学 その4(終)
どうにも考えはまとまらず、かといって何もしないのも落ち着かないので。
不定期連載
〈私〉をひらく社会学 (大学生の学びをつくる)(豊泉周治ほか、2014)
の
第10章 民主主義を支える〈最初の約束〉
第11章 公共空間を作り出す
第12章 愛国心から国の「カタチ」へ
をやります。
第10章 民主主義を支える〈最初の約束〉
◯第Ⅲ部(10章〜12章)では、われわれ自身の側から社会を構想し設計して行く方法について考えて行く。
→本章では民主主義を制度化する時の課題、困難、そして解決への道筋を示す。
◯現在の政治に対する関心の低さ=民主主義の問題点として「政治との距離の遠さ」と「数の論理による結果の自明性」という二点がある。
→民主主義における「代表制」と「多数決制」の問題。
→カール・シュミットの思想に基づきながら解決策を考える。
◯(シュミット)民主主義における権限や権力の真の源泉(正当性)は、人民による直接的な意思表示である「人民投票」に由来する。
→権限・権力の源泉となっているものは二種類ある。
- 法によるもの:合意された手続きに則っているから→合法性による力
- 支持によるもの:被統治者が統治者を支持しているから→正当性による力
→第一の理由としては、代表制の議会は本来果たすべき機能として「公開の討議による意思決定」を持っているが、実際には「利益集団としての政党間の調整」の場となってしまっているから
→第二の理由としては、支持/不支持の二者択一的な行動がわれわれに政治参加のリアリティ(政治の近さ)を約束してくれるから。
→「決められない政治」(政治的ロマン主義)に陥ったとき、人民は強烈なリーダーシップ(独裁者)を求めてしまう。
◯「政治の遠さ」を招く代表制(間接民主制)だが、直接民主制が技術的に困難だという以外にも根拠があって採用されている。
→政治が大衆民主主義化する中で、支持者の直接的反応を政治的な最終決定に反映させないという、ストッパーとしての役割。
→人々の感情的反応を合理的な見解に置き換え、より良い合意形成のための契機へと変えて行く。
→選挙はあくまで「手段」、「目的」はその先の代表者による討議と意思決定にある。
◯なぜ多数決が「もっとも民主的な方法」としてみなされているのか。
→(投票権付与の条件さえクリアすれば)与えられた一票の価値は平等であるから。
→同時に多数決は「少数者が多数者の見解に従うことを強制する」半民主主義的な制度だともいえる。
→「多数派と少数派が互いに歩み寄りながらよりよい合意形成を目指す」という理念を忘れず、それを実現する制度設計を行わなければならない。
◯このような理念の元で制度設計を考えた時、「社会契約説」がもっとも影響力ある設計図の一つとして挙げられる。
→非統治者と統治者の分裂を生み出すホッブズ的契約に対し、ルソーは「全員が全員に一括して権利を譲渡する」契約(=「最初の約束」)のイメージを描いた。
→少なくとも一度はあらゆる服従関係(分裂)を失効させるための約束として「全員一致の契約」を締結し、共通・不可分の主権を樹立する必要がある、という困難がある。
◯政治思想史の中では、この「最初の約束」の困難を解決するものとして「共和主義」「手続き主義」と呼ばれる二つの立場がある。
- 共和主義:契約に先行して価値の共有がなされる
→個人化・価値観の多様化が進む現代社会では成立し得ない。 - 手続き主義:最初に同意されるのは意思決定の方法(手続き)に限定される
→形式的な手続きは「共同体としての連帯」を保証し得ない。
◯この批判に対し本書は「共通価値を共有する一元的な統合型社会」から「社会問題を共有する多元的協働型社会」への転換を提案する。
→討議の実効性を確保するためには、価値の共有は(十分条件ではあるが)必要条件ではない。
→社会問題を共有することで、それを解決・調整するための政治の必要性がリアリティをもつ。
→ボネットは多元的社会における価値共有の糸口として「先行承認」という考え方を示している。
第11章 公共空間を作り出す
◯かつてインターネットが普及し始めた頃、双発的なメディアとして市民の政治プロセスへの参加促進が期待された。しかし実際にはむしろ民主的な意思決定とは反するような情報行動が氾濫している。
→人は「見たいものしか見ない」ために、共通の関心を持たなくなってしまう。
→ネット上での討議は集団分極化し、過激な方向に向かいやすい。
◯ハーバーマスはコミュニケーションを「人々の間に共通の意味的世界をつくりだすような何ものか」として考えている。
→『公共性の構造転換』のなかで彼は「公共圏」という概念を提案し、コーヒーハウスなどでの平等な討議を通して生まれた「公論」に価値を見出した。
◯公論の妥当性は、議論のやり方に施された手続き上の工夫によって保証されている。
- 議論において参加者の社会的地位は考慮されない
→議論の説得力のみが判断基準として尊重される - 話題を限定しない
→従来は権威によって押さえつけれていた領域にも意見する - 誰にでも門戸を開く
→参加者たちが自分自身をより大きな公衆の一部だと理解するようになる
◯しかしこの公共圏は19世紀後半から「構造転換」してしまい、その政治的機能を失う。
→マスメディアの発達に伴い「公衆」の範囲が拡大し、広範な利害対立が激化したため合意形成が期待できなくなった。
→制度化された公共圏を利用する主体として、政治家たちが活動するようになった。
◯コミュニケーションは「真の意味での合意や了解」を目指していると考えると、その合理性を議論できるようになる。
→ある意見に対する反対意見は、権威や権力を持ち出して服従させるより根拠を示して相手の理解を求める態度のほうが「合理的」。
→批判可能性をいかに大きくするか、という観点から社会の発展を考えることが可能となる。
◯近年英語圏を中心に「熟議デモクラシー(deliberative democracy)」という思想が盛んに論じられている。平井亮輔は討議が果たす意義を次のように整理している。
- 討議を経ることで結論の妥当性や正当性が保証される
- さまざまな見方を学習する機会が与えられる
- 決定に参加することそれ自体が共同体感覚・連帯感の形成に役立つ
◯フィッシュキンは「制度化された公共圏」である代表民主制において熟慮された世論が形成されにくい理由として次のような問題点を指摘している。
- 合理的無知:割に合わないことは知ったり考えたりしようとしない
- 非態度:「とりあえず」の態度表明を排除できない
- 集団分極化:似たような意見を持つ集団の中でしか議論が行われない
- 操作されやすい世論:確かな知識に基づかないが故に不安定
◯こうした問題に対処するためにフィッシュキンは「討論型世論調査(DP)」という世論調査の手法を提案している。
第12章 愛国心から国の「カタチ」へ
◯海外メディアは昨今の日本の社会情勢を「右傾化」と表現することが多い。
→一般に「右」という政治立場は、内に対して愛国的、外に対して排外的であることを指す。内外を分ける枠組が「国家」である。
→現代日本の社会意識を見る場合は、愛国心と排外主義を区別して考える必要がある(辻大介・藤田智博)。
◯ベネディクト・アンダーソンは国家という枠組を、「人々の心の中に想像上の存在としてある共同体(imagined community)」であると述べる(『想像の共同体』)。
→大多数が赤の他人から構成される共同体に、他の集団にはない特殊な帰属意識を抱いている。
→表面的には非宗教・世俗的な制度だが、われわれの意識に取っては宗教と同等の機能を果たしている。
→国という共同体は、想像の産物であるが故に人生の「目的そのもの」に転化しうる。
◯テンニースは人々が形成する社会集団を二つの類型に分けた。
→前近代から近代になるにつれ。ゲマインシャフト的なものからゲゼルシャフト的なものへと移り変わってきた。
→手段(=ゲゼルシャフト的)であるはずの国家が、超歴的運命共同体という擬似的ゲマインシャフトの性格を帯びる。
◯正しい「国語」という規範的な言語観は、近代国家の国家意識が事後的に生み出すものであると同時に国家意識そのものを生み出す原因ともなっている。
→国家統合のための国民意識の形成を目的として規範的な「国語」の統一が行われるが、やがて「国語」を話すことで国民意識が涵養されるようになる。
→国民や国語というゲマインシャフト的な観念が、近代国家というゲゼルシャフト的組織によって人工的に創造された。
◯現代も国民国家の誕生期と同様に、ゲゼルシャフトがゲマインシャフトの論理を呼び覚まそうとする時代だといえる。
→問題は、われわれ自身の想像力が生み出したものが、あたかも超歴史的に実在してきたかのように錯覚させられてたり、伝統という理由だけで過去が現在の自由を抑圧してしまう事態にある。
◯東西に分裂した戦後ドイツにおいて、国家の空間的な分断と歴史的なナショナル・アイデンティティからの時間的な分断を克服するために「憲法パトリオティズム(憲法愛国主義)」という思想が提唱され、これにハーバーマスは注目した。
→ハーバーマスは、歴史の連続性の回復によりその伝統文化に依拠したナショナル・アイデンティティを再構築しようとする傾向(歴史修正主義)に危機感を抱いていた。
→ナショナル・アイデンティティを歴史に求められないとしたとき、基盤となりうるのは民主主義秩序を保障してくれる憲法そのものしかない。
→手続き規定に過ぎない法規範にアイデンティティの根拠をおくためには、それ自体が普遍性・神聖性を帯びている必要がある。
→しかし制定当時からの社会情勢の変化に対応するためには憲法の墨守では限界がある。あくまでも他国を前にして普遍化可能な「国のカタチ」を合意しつつ、選び取って行かなくてはならない。
【今回の三行まとめ】
- 民主的な理念の元での社会制度設計には「社会契約説」が有効な指針を与えてくれる。しかし多様化する現代において価値の共有は難しく、「社会問題を共有する多元的協働型社会」を目指すことがその対処法となりうるかもしれない。
- コミュニケーションを通じ「真の意味での合意や了解」を得るためには公共圏における議論が必要である。それには様々な困難が伴うが、討議型世論調査などの提案もなされている。
- 国家という枠組は他の共同体と異なり、ゲマインシャフト的な様相を帯びやすい。想像上の枠組がわたしたちの現在の自由を抑圧しないように注意する必要がある。
【今回の宿題】
- 特になし
……こんなところで。半ば気分転換なのでやや書き飛ばし気味。
研究計画書、もうちょっと踏み込めそうな気はするのだけど、どうやって踏み込めばいいのかわからないのがどうにも歯がゆい。
当面の作業としてはシャノンの情報理論を丁寧に学習するということでいいはずだけど、それをどう「人と人のコミュニケーションの実践」の領域に引っ張ってくるか。
そして目の前のノートパソコンが熱い。辛い季節。
それでは
KnoN(100min)