現代思想の教科書 その2
寝付けないのは暑さのせいかストレスのせいか。
引き続き
現代思想の教科書 (ちくま学芸文庫)(石田英敬、2010)
の
2 「言語の世紀」の問い ーソシュールをめぐってー
をやります。
2 「言語の世紀」の問い ーソシュールをめぐってー
20世紀は「言語の世紀」だったと言われている。
人間の生活世界、文化や社会を説明する原理として「言語」が中心的な問題として浮上してきた。
→フロイト、ヴィトゲンシュタイン、ハイデガーなど
→思想史における「言語論的転回(the linguistic turn)」
この言語論的転回を引き起こした背景にあったのは、人間の理性・意識・観念は、人間の精神が自由に決定できるものではなく、言葉や記号やイメージといった「言語の次元」からの決定を受けている、という発見であった。
→物質と精神の間には、「意味を生み出す形式」という別の次元か介在し、固有の領域を形成している。
本章ではフェルディナン・ド・ソシュールの思想から「言語の問題圏」がどのようにして現れたのかを考える。
ソシュールの言語モデル:ことばの回路
ソシュールは従来において文字と書物に基づいて行われてきた言語学に、「フォノグラフ(蓄音機)」のような新技術を使った「音」の要素を導入した。
これにより言語学の研究法は大きく転換し、「音韻論」のような言語研究の基礎的な分野が刷新されるとともに、まったく新しい言語観を示した。
→著者はこれを「ポスト・グーテンベルク状況」と深く結びついて成立した知であると考えている。
⇒メディアにおける文字の絶対性が崩れたが故に成立した視点。
- 通時言語学
→文字を手段として言語を研究し、言葉がどのようにへんかしていったのかを歴史的に研究しようとする学問。 - 共時言語学
→現在進行形での言葉のやりとりにおいて、頭の中でどのようなことが起こっているのかをモデル化して理解することから言語を研究しようとする学問。
ソシュールが現代言語学を確立したときに、「ことばの回路」と呼ばれる言語モデルを提唱している。
→言語活動を「話し手/聞き手という二者の間に成立する言語記号のやりとり」と考える。
そのやりとりは個人の中で行われる「概念と音響イメージを結びつける心的過程」と「音響イメージと生理的な発声/聴取を結びつける物理的過程」からなり、その連なりとしてコミュニケーションが表現される。
図1:ソシュールの「ことばの回路」
記号学への拡張
ソシュールは「概念とイメージの結合」により言語というシステムが成立すると考えた。
そして言語のように意味を生み出したり伝達したりする「記号」は必ずしも「言語記号」であるとは限らない。
→言語以外の意味活動をも包括する、意味の一般学としての「記号学」の提唱。
ソシュールによれば、記号は「シニフィアン(表現、徴)」と「シニフィエ(内容、概念)」の二つの側面からなる。*1その二つが結びつくことによって記号(シーニュ)という「意味の活動領域」が成立するのである。
記号は孤立してではなく、「差異のシステム」として存在している。
→人間は言語記号を「パラディグム(範列)」と「サンタグム(連辞、統辞)」という二軸で結合させることによって、意味のある文章を生み出している。*2
→この記号の組み合わせの原理は、言語だけでなく他の様々な種類の記号についても成立しうる。
図2:範列軸と統辞軸
「ソシュール革命」以後
意味の一般学としての「記号学」の提唱により、言語記号だけでなく、他の視覚記号・音響記号・身体記号において成立する意味作用への総合的な研究への道が開かれた。それらは次のような潮流を生み出している。
- ロシア・フォルマリズム
- 構造主義
- 精神分析
- 消費社会論
- ポスト構造主義
【今回の三行まとめ】
- 20世紀において、言語を人間の生活世界、文化や社会を説明する原理とみなす思想が発展した。これを思想史の「言語学的転回」という。
- ソシュールは従来の文字中心の言語学に音の要素を加え、概念と表現の結びつきを重視する「共時言語学」、さらに一般化させた「記号学」を切り開いた。これには文字の絶対性が失われた「ポスト・グーテンベルク状況」が影響していると考えられる。
- ソシュールのこのアイデアは20世紀を通じて大きな潮流となり、さまざまな分野において新しい物事の見方を生み出す原点となった。
【今回の宿題】
- 特になし
……ソシュールの記号学はこれまでも何度も触れてきたので、改めて確認するようなことはほとんどなかったり。ましてや全体の中の一部、という位置づけだし。
「ことばのモデル」はここで学んでいたのか。忘れていたのを思い出せたのは良かった。
同じことを長々と繰り返しても意味がないので、今回は軽めに。
それでは
KnoN(60min)
- 作者: フェルディナン・ド・ソシュール,小林英夫
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