補足:インタラクションの理解とデザイン
立って作業すると健康にいいらしい。
というか、座りっぱなしが健康に悪いらしい。
先日やりました
岩波講座 現代工学の基礎 インタラクションの理解とデザイン 《情報系Ⅶ》(西田豊明、2000)
について、
このブログで主に取り扱っている「情報と交流」的な内容は
でまとめましたが、別のテーマである「ストーリーデザイン」についても関連する面白い話が紹介されていました。
やや毛色が変わる話になるので別の記事とした次第です。
そういうわけで
物語性のモダリティ
とでも題して延長戦をやっていこうとおもいます。
インタラクションの理解とデザイン (シリーズ 現代工学入門)
- 作者: 西田豊明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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物語性のモダリティ
◯個々の発話がまとまりとして意味を持つためには、発話を「つなげる」構造だけではなく「位置付ける」構造が必要となる。これを物語構造という。
- 談話構造:会話の流れの手がかり(指示代名詞、省略)を作り出す構造
- 物語構造:それぞれの発話の内容を関連付けて一つのまとまりにする構造
……発話の背後に物語構造が認められなければ、個々の発話の個別の意味は理解できても、その集まりはばらばらでまとまりのないものとなり、全体として一体何を意味するのかわからなくなってしまう。
◯構造分析を推し進めると物語は徐々に抽象化されていく。シャンクは、物語が「話題の対」として要約されるとするTOP理論を提案した。
物語の構造分析では、物語のテキストで陽に暗に語られる行為のつながりを読み解く*1。
→継起、因果、意欲、反応、持続など。
シャンクはTOP(Theamatic Organaization Packet)理論において、物語を「話題の対」として要約することを提案した*2。例えば次のようなものである。
- PG;EI(Prossession Goal; Evil Intent):所有欲を満たすため、邪悪な意図を使う
- MG;OO(Mutual Goal; Outside Opposition):相互の目標に対し、周囲が反対する
- CG;CS(Competing Goal; Compromise Solution):競合する目標に対し、妥協的な解決が行われる
→物語分析を続けていくと、その背後にある社会構造の分析に至る。
⇒このテキストにはこれ以上の説明はない。詳細は典拠を当たる必要がある。
◯物語を理解するには聞き手にも一定の背景知識が求められる。シャンクはそのモデルとして、スクリプトの概念を導入した。
スクリプト(script)は劇などで使われる台本にヒントを得た知識構造であり、「一定の役割を担った登場人物」と「いくつかの典型的なシーンのつながり」から構成される。
→そうした設定に基づいた「典型的な物語」(=スクリプト)が想定され、「スクリプトとどのように異なっていたか」という観点から話題とする出来事の顛末が説明される。
→「スクリプトからどう逸脱したか」についてもパターンとして蓄積された経験則があり、書かれていない事柄についてまで推論を行い得る。
次の記述も参考のこと。
2.3 スクリプト
スクリプト(Script)は、人間が持つスキーマとしての知識の中で、特に手続き的知識(Procedural Knowledge) に関わるものである、スクリプトは、ある典型的状況で人間が想起する一連の手続きを表現する方法として、シャンク&エイベルソン(Shank & Abelson,1977)によって考案された。
例えば我々は、レストラインに入って、食事をし、勘定を済ませ、店から出て行くという一連の行為についての知識(レストラン・スクリプト)を持っているため、通常は問題なくレストランで食事をすることができる。また、以下の3つの文(文献2から引用)を読んだときに、ほとんどの読み手はこれだけの文章から、そこで何が起きたかを容易に理解できるだろう。
- 太郎はあるレストランに入った。
- 特大のステーキに挑戦してみることとした。
- 彼はベルトをゆるめながら店を出た。
つまり読み手は、この文章からレストラン・スクリプトを想起し、それによって明示されていない部分で何か起きたかを補完することができるのである。スクリプトは、我々の日常生活の多くの場面で、我々の認知活動を助ける(あるいは制約を与える)スキーマの一種であると言える。
(「認知と情報(稲葉)第3回 認知科学と人工知能」より引用、なお引用にあたり多少体裁を整えている)
このように考えると、人間の知的活動全般を「物語(スクリプト)の生成・蓄積・交換のプロセス」としてモデル化することができるようになる。
→人間の記憶は、経験で得られた情報が構造化された物語のプールである。
会話により物語を交換し、また経験から物語を作ったり、新しい解釈や情報を加えたり、物語同士を組み合わせたりと「編集」しながら新しい物語を生み出している*3。
記憶は、構造化して整理(=物語化)できないうちは定着しにくい。断片的な経験であっても、様々な角度からそれを話しているうちに一つの構造にまとまっていくことがある。
→「話すことは覚えることである」という直感に合致する。
他人から聞いた物語には解釈が加えられ、自分にとって既知の物語との類似性を見出そうとする。
→該当するものがあれば、新しい物語は古い物語をベースに比喩的に理解される。
違いが顕著であれば、違いの原因とそれに基づく一般化が試みられる。
⇒「典型的な物語(スクリプト)」を起点とすることで他者の経験や知を効率的に吸収することができる。
◯人間の記憶は「物語化された経験」のプールとして捉えることができる。ここに蓄積され、伝播していくと考えられているものが文化遺伝子(ミーム)である。
文化遺伝子(ミーム)という概念は、リチャード・ドーキンスの利己的な遺伝子(selfish gene)という概念を人間社会における文化の拡散を説明するために転用したものである*4。
⇒詳細は省略。原典にはずっと興味を持っていたので、またいずれ取り扱う機会もあるかもしれない。
【今回の宿題】
……おまけのつもりがかなり長くなった。
TOP理論はストーリーのデザイン、作る方の参考として、スクリプト理論は意図の伝達を考える際の参考として役に立ちそうだ。
とくにスクリプト理論は同じようなことを常々考えていたので("ナラティブ"という言葉を使うことが多かった気がする)、どのように研究が進み、どこまで説明できて何ができないのか非常に気になる。惜しむらくはこっちのテーマは当面後回しにしようと考えていることだが。
先生に面談のアポ取りのメールを送ったので、しばらくは話すこと・考えてきたことをまとめることに時間を使う予定です。うまく形になればいいけど。
それでは
KnoN(120min)
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