「らしい」建築批判 その1
「読書メーター」だけではさびしいので。
レジュメからの流用だけど記事にしちゃいます。
初回は
の
1 新国立競技場計画設計競技
2 ザハ・ハディド案
3 ブランドとしての建築家
まで。
第一部 新国立競技場コンペにおける政治学*1
まず序盤3章において、新国立競技場コンペで最優秀賞に選出されたザハ案の問題点とそのような案を選ぶに至ったコンペそのものの政治性について指摘している。
ザハ案は具体的には大きく次の三つの問題点を持つ。著者は特に最後の点を重く見ている。
- ザハの建築としてみたときに単純に物足りない
- 神宮外苑という敷地の空間的・歴史的環境への配慮不足
- 構造的な無理からくる建築費の大幅な予算超過
→ザハ・ハディドは造形力に強みを持つ建築家であるが、このプログラムにおいて必要以上に難しい形態を実現させるために構造的な無理を強いている。
それに伴う負担増は都民・国民の税金から賄われるが、そこに充分な妥当性はない。そしてそれを(建築の専門家として当然承知しながら)最優秀賞に選んだ安藤忠雄委員長以下の審査委員会こそ、その責任を負うべきである、ということである。
建築が単にデザインの奇抜さだけで評価されるものではなく、意匠、構造、工法、楚材、設備、機能性、長期間の耐久性能、耐震を含む防災上の安全性、与えられた土地の風土との兼ね合い、周囲に対する景観的な配慮、それに予算や維持費用などを含んだいくつもの重要な要素の「バランス」の上に初めて成り立つものであるのは、いまさら言うまでもない。それは、五輪の祝祭性を要請されるスタジアムであっても、決して例外ではない。
そのような決定に至った原因はなんだったのか。著者はそれをコンペそのものの政治性に、そしてそのバックボーンとなる現代資本主義社会を動かす原理にその理由を見出している。
コンペが行われた当時(2012年)は2020年の五輪開催地は決定しておらず、各都市が熾烈な招致合戦を繰り広げていた。検討中の新国立競技場には「東京オリンピックのアイコン」としてIOCにアピールする切り札としての役割が期待され、そのためには「実際にどのように使われるか」よりも、派手な見た目やわかりやすいインパクト、そして何よりもIOCにアピールできる「ブランド建築家」の名前が必要であった。
→その後2020年の東京開催は無事に決まり、一方でザハ案は大幅な見直しを余儀なくされている。 それに関しては建築界の内外で多くの議論が行われているが、本記事では省略する*2。
このように二〇世紀末からのブランドを求めるアイコン的建築物への要望が、いまや公共建築における国際設計競技の選定にも端的に、というよりも、かなり露骨なかたちで現れている。その一つが、まさしく今回の新国立競技場計画の選定の過程に潜む政治学なのであった。
このような事態が起きている背景に、建築が「アート・マーケット」の新しい商品として注目されてきているということがある。
そもそも美術品とは近代の「美術館という制度」によって成立する概念であるが、近年では(美術館に実物を展示できないことから本来的に美術品になりえない)建築をあえて「アート作品」として扱おうという動きがある。
美術品は資本主義社会において、無限に増殖していく資本の投資先としての側面を持つ。公共の中で社会性を持つはずの建築が、資本主義社会の原理の中でブランドと値札を競い合うスノビズムの対象となってしまっており、その結果「ユーザーにとっての利便性」とは違うレベルで建築の価値が評価されるようになってきてしまっているのである。
【今回の三行まとめ】
- 新国立競技場のザハ案は表現を優先して周辺の環境や予算的制約を無視している。
- その案を選んだ審査委員会、その案を選ばせた(だろう)政治的な背景にこそ問題の本質がある。
- 現在の消費社会においては建築がその設計者の名前とともに一種のブランド、アイコンとなっており、機能や社会性の側面が余りにも軽んじられてしまっている。
【今回の宿題】
- 近代における「芸術」の成立
……まあ、本文は既に書いてあったやつに加筆修正しただけなので楽でした。
こっちはブログらしく積極的にリンクを張っていきたいと思います。画像の貼り付けとかについては今後の努力目標ということで。
それでは
KnoN
新国立競技場、何が問題か: オリンピックの17日間と神宮の杜の100年
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*1:実際には第◯部というのはなく、1から9まで章が線的に並んでいる。しかし内容を見ると大きく三つのまとまりに分けることができると思われるので、ここでは分割した上で独自に見出しをつけることとした。
*2:槇文彦「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈で考える」
槇文彦+大野秀敏編著『新国立競技場、何が問題か』(平凡社、2014)
など。