本を読むということ:11月第1週のまとめ(10/29-11/4)
一見して安定しているように見えるここ最近。
でもそういう時こそ見落としや落とし穴がありそうで怖くなる。視線を上げて、先の先まで見通さないと。
今週の一冊:〈読書の黄金時代〉だった20世紀『読書と日本人』
【この本の3行まとめ】
- 平安時代以来の「日本人の読書史」についてまとめた画期的な書。
- 「本はひとりで黙って読む。自発的に、たいていは自分の部屋で」このような読書のイメージは、20世紀の特殊な状況(=〈読書の黄金時代〉)によって成立した。
- メディアの配置が大きく変化して行く現代においては、「新しい読書の常識」が醸成されて行くことになるだろう。
研究の参考となりそうな本がつい二週間ほど前に出ていたようだ。まだ全部を読み終わったわけではないが、概要は掴めたので紹介してみることにする。
前半(第一部)は平安期〜明治期までの日本における読書史の概観。後半(第二部)は昭和〜平成(=二十世紀)における大きな社会状況の変化に焦点を当て、この時期が〈読書の黄金時代〉ともいうべき特殊な期間であったと論ずる。
なぜ二十世紀が〈読書の黄金時代〉なのか? 社会構造の変化が新興中産階級(="小市民")を誕生させ、同時に工業化によって住宅の電化と書籍の低価格化が実現した。このことにより教養主義に基づいた「本を読むのは良いこと」という規範がインテリだけでなく一般庶民にも普及したからだ。
関東大震災や第二次世界大戦により「物質としての本」が大打撃を受けながらも目覚しい勢いで復活を遂げたのはこうした下地があったからだと言える。
しかし現代、厳密に言えば1950年代の途中からすでに「活字ばなれ」というものが指摘されていた。「かたい本」から「やわらかい本」へ、「人格形成に役立つ本」から「面白い本/売れる本」へという流れは、出版数が猛烈に増加する「読書飽食の時代」において必然的に進行していく。「商品としての書籍」(書店)と「公共財としての書籍」(図書館)のバランスが崩れ、出版の資本主義産業化が進んで行ってしまった。
人が本を読まなくなった。あれほど堅固に見えた〈紙の本〉への信頼感がぐらりと揺らいでいるように見える。このさき私たちの読書環境はどう変わってしまうのだろうか。(津野海太郎『読書と日本人』 p.251)
著者は必ずしも「活字ばなれ」が進む状況を悲観してはないない。これまで論じて来たように、現代の我々が自明視してきた読書習慣・読書規範(=読書の常識)は二十世紀という特殊な状況下だからこそ成立して来たものだったからだ。となれば、多様なメディアが複雑に入り組んでいる現代における「新しい読書の常識」がゆっくりと形成されていくことになるだろう。
とすれば、本書でいう〈読書の黄金時代〉としての二十世紀にしても、たしかに大きな力に満ちた時代ではあったが、それでもやはり人類の読書史が到達した輝かしい頂点だったわけではない。おそらくは、いずれそこにいたる(かもしれない)過程のひとつにすぎなかったのでしょう。そして二十一世紀という本と読書の単純ならざる電子化の時代もまたーー。(同 p271-272)
この「新しい読書の常識」の中に「要約を利用した読書」を位置付けることができるのではないか、というのが現在の自分の研究の目指すところだ。
バイヤール(2008)*1が論じているように、そもそも「本を読む」という営みは自明ではなく、最初から最後まで丁寧に読み切らなければそれについて語ることができない、というものでもない。むしろ現代の「実用目的」の読書においては、「短時間で要領よく本の要点を掴む」ことは重要なスキルとして求められている。
そして「短時間で要領よく」の部分にもう一捻り加えれば、その本が本来想定していた読者層以外にも内容の持つ価値を発信し、さらなる広がりを生み出すことができるのではないだろうか? これをなんとか実証していきたい。
今週の気になるニュース:電子図書館「蔵書不足」解消で利用は広がる?
もはや「週刊図書館通信」の様相を呈して来たこの欄。今週は「電子書籍」と図書館について。『読書と日本人』でも図書館や電子書籍には当然触れている。
同書によると、昭和期における読書人口の広がりには公共図書館が大きな役割を果たしていたとされている*2。東京市社会局が1928年から29年にかけてまとめた資料によると、当時では日雇い労働者ですら図書館を利用して生活の中で読書に親しんでいた。そうして育まれた読書習慣が、階層の区別なく「本を日常的に読む」生活を当たり前のものとし、将来的な「書籍購買層」を生み出して行った。
(中産階級が自宅の中に作った「書斎図書館」がその家の子弟に読書習慣を根付かせた、という指摘もされている*3。)
紙の本にしても電子書籍にしても、まず「そういうスタイルで読書をする」習慣を持つ人々を生み出していかなければ購買層は広がっていかない。出版や書店各社はもっと早い段階から積極的に関わっていくべきだったと思うが、まずは方針の転換を歓迎したい。
それを踏まえて個人的に気になるのはもう少し理論的なところだ。図書館が電子データを「蔵書」と貸し出すようになるとして、「同時貸し出し冊数」はどうなるのか?
紙の本の場合、「同時貸し出し冊数」は物理的な複本*4の数に制約される。利用が多い本はそれだけ複本が購入されることになるので、出版社としても利益になる。
一方で電子書籍の場合、実体がないのでデータのコピーは自由自在だ。貸し出し期限の話は置いておくにしても、ベストセラーなどの人気が集中する本の「貸し出し冊数」をどういう根拠で制限できるのか。
図書館の根源的な役割として「市民が情報にアクセスする権利を保障する」というものがある。一部の本に貸し出し希望(予約)が殺到し、時に年単位で予定が埋まってしまうことも図書館では問題になっている。解消のために複本を多く購入しようとしても、限られた予算や収蔵場所の問題もあり10冊や20冊も購入することを正当化するのは難しい。
ここで「電子図書館」 なら原理的には「1冊分のマスターデータから無数の貸し出しデータ」を生み出せることになる。当然そんなことをされてしまっては出版社側は商売あがったりなので「マスターデータ1ライセンスにつき貸し出しデータ◯冊まで」みたいな契約になるのだろう。しかし果たしてそのような状況で「貸し出しライセンスがいっぱいなのであなたにはお貸しできません(予約して数ヶ月待ってください)」と言われて納得できるだろうか。
これまでは「予算や場所といった物理的な制約」と「実際に図書館まで実物を取りに行くという行動コストの制約」があったがために「一冊の本を利用者が取り合う」問題が表面化することは少なかった。しかし電子化によって「借り出し」の利便性が向上すれば無視できなくなるはずだ。さらに商業上の制約とも合わさってどのような運用が結論として導き出されるのか、注視していきたい。
修士論文進捗状況:大きな山を乗り越えたい
今週やったこと:
- 関連研究(要約の評価)再調査
- 典拠箇所グラフからのパターン分類をブラッシュアップ
- 目次からの論理構造分類をブラッシュアップ
- 質問項目たたき台作成
- 論文目次草案作成
今週やりたかったこと:
- 質問項目それなりに完成
- 論文「序論」と「関連研究」の概要
来週やること:
- 質問項目完成
- 調査協力者の確保
- 論文「序論」と「関連研究」の概要
進んではいる、けど〆切に間に合うほどに進んでいるかは正直よくわからない。
『読書と日本人』も合わせて「第1章 序論」と「第2章 関連研究」はそれなりにかけそうな気がしてきた。着手したい。
二本立ての調査のうち、1つ目はその研究全体における位置付けが、2つ目は実行するための段取りがやや見通し不明瞭。ここを乗り越えればあとは一気にいけるはずだけど……。
その他
- 今月下旬に予定しているサークル会合の開催告知を送る。大学の学園祭に合わせた日程にしているので昼間はそちらに挨拶に行きたいが、果たして自分の予定に余裕が作れるか。
- 川崎フロンターレは最終節に逆転負けを喫し年間勝ち点2位で終了。何度目だ……。前半戦、後半戦、年間のトリプルシルバーかと思ったら後半戦は最後で3位にまで後退していた。CSでなんとか雪辱を!
- 『Ulysses』というエディタアプリを導入してから小説を書くのが楽しい。Mac用とiOS用の両方を購入したので高くついたけど満足のいく買い物だった。
……「一冊」も「ニュース」もちょっと頑張りすぎた。書きたいことが多かったからだとはいえ、想定時間を少しオーバー。このあたりの感覚も磨いていきたいです。
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