哲学入門 その4
今日こそお昼までに終わらせる。
引き続き
哲学入門 (ちくま新書)(戸田山和久、2014)
の
第四章 表象
をやります。
第四章 表象
第一章、二章では「表象能力を持つ主体」を前提としたトップダウンの議論を、第三章では何もないところから「意味の原型」が生まれてくるボトムアップの議論を行った。
本章ではその二つ(主にミリカンとドレツキ)を結びつけるため、「表象」を自然界に位置づけることを考える。
志向性の冒険
本章の目的を改めて確認しておくと、「自然界を流れる情報(志向性もどき)がいかにして志向的表象(正真正銘の志向性)にまで進化するかを辿る」ことである。
→「モノからココロがどうやって発生したのか/できるのか」を考える。
志向性(intentionality)
=自分以外の何ものかを思考する、という性質。
「について性(aboutness)」と「間違い可能性」によって特徴付けられる。
二つの特徴を完備する→(正真正銘の)志向性
(ドレツキの議論のように)「について性」のみに着目→志向性モドキ
世界に存在する記号(表象)には次の二種類を考えることができる。
自然的記号
=自然的情報(ある出来事の条件付き確率が1となる)を担う。
→「間違い可能性」がない
志向的記号
=そこにないものについての情報を担う。
→「間違い可能性」がある
となると考えるべき課題は次の二つだ。
- Q1:どうやって無数の自然的情報から一部を選り分け、それを志向的記号に変換しているのか?
- Q2:それを可能にするためには自然的情報はどのようなものでなければならないのか?
この二つの課題について、ドレツキとミリカンの違いとそれを結びつける議論を追うことで検討していく。
「自然的情報」の再定義
◯まずはドレツキの主張
- 志向的記号は自然的記号の一種と考えるべき。
- 志向的記号は生きものが生存に利用するために生み出された点で他の自然的記号一般と異なる。
◯対してミリカンは「単純化しすぎている」と述べる
- 真なる志向的記号がすべて自然的情報を運ぶ訳ではない、自然情報を運ぶことは志向的記号の目的ではない。
- ドレツキの自然的情報の概念*1は生きものにとってユーザーフレンドリーでない。
→生きものがそれを利用する理論を構築するときに条件が厳しすぎる。
「厳しすぎる」というのは「二つの出来事間の条件付き確率が1」という部分が自然法則によらなければならないのか、統計的頻度でなりたてばよいのかという話だ。
自然的情報の概念が記号と内容(シニフィアンとシニフィエ)の間に自然法則を求めるものだと考えるならば、その一般性・普遍性・必然性といった特徴から「個物についての法則はない」(=特定の何かについてだけ成立する関係性はない)という帰結となってしまう。したがって個物についての自然的情報もありえない。
→記号とそれが表すものの繋がりは完全に普遍的である必要はない。限定された場所・期間においてのみ成立するものでも、生きものにとっては充分に役に立つ。
◯これをふまえ、ミリカンは次のように主張する
- 生きものが利用できる自然的情報については「局地的情報」を考えればよい。
- 自然的記号が何かを表すには、必ずしもその条件付き確率が1でなくてもよい。
→つながりに高い確率はいらず、じっさいにつながりがついていることだけが必要。
→「単なる偶然の一致よりは強くて、普遍法則性よりは緩やかな」つながり
局地的情報
=出来事間の結びつきが、限定された場所・期間(準拠領域)における、環境に関する統計的頻度に基づく情報。
……ここの部分がわかりにくいな。実際にはなにが起きているか分からないから確率を用いて説明していたと思うんだけど、「じっさいにつながりがあることが重要」っていうのは???
ミリカンは「生きものに必要な自然的情報・自然的記号はどういうものか」という観点から自然的情報の要件を弱めてきた。つながりさえあれば一回限りの出来事でも問題はないというわけである。
しかし自然選択や学習によって自然的記号を利用する能力を獲得するためには、同じ自然的情報を担って繰り返し生じる記号が必要である。
→ミリカンが「局地的反復自然記号」と呼ぶ概念の提案
準拠領域を自然化する
この「局地的反復自然記号」を唯物論的世界観の中に適切に位置づける(理論的に定義する)ためには、その前提となっている準拠領域が(恣意的なものではなく)自然的に成立するものであることを説明しなければならない。
ある準拠領域で「AがBの局地的反復自然記号である」とはどういうことなのか。
→まずその領域で「生きものがAとの出会いからBについて知る(=偶然ではない仕方で真なる信念を獲得する)」ということが可能でなくてはならない。*2
そのために必要なのは「これまでAとBが相関しており、これからも引き続き成立しているだろうと思われる=相関が過去から先まで何らかの理由ゆえに保たれる」ことである。
→真っ当な準拠領域とは「AとBの相関がその領域のある部分から他の部分へと、ちゃんとした理由があって拡張される領域」でなければならない。
Q2:それを可能にするためには自然的情報はどのようなものでなければならないのか?
→A. 局所的反復自然記号
記号には消費者が必要だ
次に「どうやって無数の自然的情報から一部を選り分け、それを志向的記号に変換しているのか?」、つまり局所的反復自然記号から間違い可能性を備えた正真正銘の志向的記号はどうやって生まれてくるのかについて考える。
◯ドレツキ的な立場から意見するとすると、
- 志向的記号とは、局地的反復自然記号を生み出すことを目的・機能とするメカニズムによって生み出された記号である。
- このメカニズムは実際はその記号が指し示す出来事(情報)がないのにその記号が生まれてしまうことを許容する=志向的記号は間違い可能性を持つ。
◯それに満足しないミリカン
- 「志向的記号は局地的自然情報を伝えることが(本来の)機能」だといってしまってよいのか。
→志向的記号が成立するためには、記号の生産者と消費者が協調することが必要である。
→そもそも消費者を前提としなければ「生産者」(=誰かにとって役立つものを作る)という立場は成立しない。
消費者は生産者が生み出す記号を受け、それが導く事態に適合するような自らの活動を導いていく。
→そのためには生産者の生み出す記号が、環境の有様と何らかのしかたできちんと対応するようになってなければならない。
「記号の消費者」を考慮に入れると、ドレツキ的に「自然記号を生み出すことを目的・機能とするメカニズムによって生まれた記号」として志向的記号を定義することができなくなってしまう。
→消費者にとってみれば生産者に求めるのは「世界の事態に現に対応する表象を作る」ことだけである。「たまたま真だった」という対応でも構わない。
→一方、ミリカンの「局所的反復自然記号」では「記号と出来事の間に一定の相関を維持する自然な仕組みがその準拠領域に存在する」ことが定義として求められている。
→相関について乖離が生じてしまっている。
この乖離を解消するために、それぞれの理論的定義を手直ししなければならない。
- 生産者の目的・機能は「何であれ真なる記号を生み出すこと」にある。
- 自然的記号はそれが生産される過程に言及して定義される概念であるため、「何である真なる記号」を生み出すことを(自然的記号の一種としての)志向的記号の生産者の目的・機能とみなすことはできない。
→自然的記号と志向的記号の関係を再考する必要がある。
「志向的記号」の再定義
「志向的記号が自然的記号の上に乗っかっている仕方を考え直さねばならない」というのがミリカンの指摘からの結論だった。
「まぐれあたりでも消費者と生産者の目的は満たされている」というのがドレツキ批判のポイントであったが、やはりそれなりの成功の頻度がなければ生きものとしては生存に支障を来す。
これを達成する唯一現実的な方法は、記号の生産メカニズム自体が「記号とそれが表示するものの間に相関を維持する自然な仕組み」の一部に組み込まれること。
つまり「記号が表象する事象と記号との間に何らかの自然なつながりがあるような仕方で、記号を生産するメカニズムを持つ」ということである。
→このようなメカニズムが正常に働いて生産された記号は志向的記号であると同時に自然的記号でもある。
……ここがさっぱりわからない。
まとめよう。消費者が生産者に求める機能、つまり生産者の目的は、真なる記号を生み出すことだけで、その手段は問わない。
しかし、十分な頻度でこの要求に応えるためには、正常に働いた場合に自然的記号を生み出すようなメカニズムが備わっていなければならない。
こうした理由で、生産者によって正常な仕方で生みだされた志向的記号はおおむね自然的記号なのである。
(改行は筆者)
さて、筆者はさっぱり理解できていないがとりあえずの結論。
Q1:どうやって無数の自然的情報から一部を選り分け、それを志向的記号に変換しているのか?
→A:生産者が自然的メカニズムに基づいて生み出した「真なる記号」を志向的記号として扱う(?)
こうして当初掲げた二つの課題に答えることができた(らしい)。
テキストではこのあと補足的なコメントが二つ言及されているが、本稿では割愛する。
次章では「間違いうるような表象」を持つ利点について「目的」を対象にして考察する。
【今回の三行まとめ】
- ミリカンはドレツキの自然情報の定義が「生きものがそれを利用する理論を構築するのに厳しすぎる」と述べる。「局地的反復自然記号」として手直しすることでその問題を解決できる。
- ミリカンは「情報の消費者」という視点を導入し、志向的記号を理論的に定義し直すことで「どのように自然的記号から志向的記号を取り出すか」という課題に答えた。
- 「消費者」視点の導入は、志向性による「ターゲット固定問題」「抽象的な表象問題」にも説明を与えることができる(割愛部分)。
【今回の宿題】
- 「局地的情報」についての説明
- 志向的記号の手直しされた定義の内容
……やっぱり二時間半近くかかるのか。字数も4000を越えたし。
分割しても良かったけど、あまり長引かせたくないので頑張りました。
今回は難しい。特に後半は全然理解できていない気がする。もう一度読み直しておこう。
(だからといって結論部分が?付きなのはどうなのか)
時間が押しているので今日はここまで。第五章はたぶん分割でやります。
それでは
KnoN(150min)
- 作者: ルース・ギャレット・ミリカン,信原幸弘
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