KnoNの学び部屋

大学に8年在籍した後無事に就職した会社員が何かやるところ。

現代思想の教科書 その15(終)

涼しい真夏。

 

引き続き

現代思想の教科書 (ちくま学芸文庫)石田英敬、2010)

15 総括と展望 ー新しい人文知のためにー

をやります。

最終回。

 

現代思想の教科書 (ちくま学芸文庫)

現代思想の教科書 (ちくま学芸文庫)

 

 

15 総括と展望 ー新しい人文知のためにー

 ここまで14の章を通して様々な思想家の問いを紹介し、いくつもの重要な問題群を検討してきた。いずれも大きなテーマであることには間違いないが、全体の広がりから見ればごく一部に過ぎない。

 ここまで論じてきたことからみえる現代思想の「思想的展望」について本章では考える。

 

 

改めて「思想とは何か」

 現代世界における知と世界の関係は「4つのポスト状況」で特徴付けられる。

 これらは相互に深く結びついた関係にあり、同じひとつの巨大な問題圏についての4つの見取り図であると考えることも出来る。

  1. ポスト・グーテンベルク状況
    →活字メディアによる文化圏の一区切り。「グーテンベルクの銀河系」の終焉。
  2. ポスト・モダン状況
    →啓蒙の時代の終わり。「近代」というプロジェクトのストーリーの崩壊。
  3. ポスト・ナショナル状況
    国民国家体制の無効化。幻想としての「国民」の消失。
  4. ポスト・ヒューマン状況
    →技術の飛躍的な発展。「人間」と「テクノロジー」の境界のあいまい化。

 

 この見取り図を持ちながら、過去一世紀に起こってきた知の変容と思想の運動の中から、次のようなトピックに焦点を当て、論じてきた。

 

 以上のことを踏まえ、改めて「思想とは何か」について考えると、次のようになる。

思想とは

=様々な知の領域において探求されてきた問題圏を知り、そこにおいて、人間の存在にとって根本的な価値に関わる問題とはどのようなあり方をしているのかを理解し、自分の思考で世界の基礎づけを試みる経験、である。

→「総合(synthesis)」を行う知

 

 

「総合知」のかたち

 思想=総合知とは、現代においてどのようなかたちをとっている・とりうるのか。これこそが最終章において考察すべき中心テーマである。

 

 本書において私たちは、様々な知の領域について、それを「専門領域(ディシプリン)」として極めようとしてきたのではなく、そこにおいて問われている普遍的な問いとは何かという観点から辿ってきた。

→「現代世界をどこまでラディカルに問うことが出来るのか」が現代思想の根本。

→様々な領域の「学際的な連関」こそがその手助けとなる。

 

 ここで「総合知」が歴史的にどう位置づけられてきたのかを考えてみる。

 歴史的に、様々な領域知の総合・知と世界との全般的な関係づけ・普遍的な価値の追究を行ってきたのは「人文学者(ユマニスト;humanist;仏humaniste)」の役割であった。哲学や人文知がそのような総合的な知の営為であった。

→しかし現代思想の問題圏は、従来の人文知・哲学が失効していることを描き出している。

 

 ルネサンス期における成立以来、人文知の基盤となっていたのは次のような内容だった。

  • 古典の精密な解釈と教養の獲得(=グーテンベルク状況)
  • 「理性の光」による世界の統合(=モダン状況)
  • 国民語を用いた古典教養による国民文化の形成(=ナショナル状況)
  • 人間を知の主体とする姿勢(=ヒューマン状況)

→これらはすべて現代において「乗り越えるべき」状況となっている。

 

 

知の横断と「考えるネットワーク」

 「総合知」の現れ方自体が、現代においては変わってきている。

 それでは新しい時代の〈来るべきユマニスト〉はどのような条件を備えていなければならないのか。

 

 近代において知をまとめあげてきた「人文知」の支配が揺らいでいる。しかしそれに取って代わる別の一般知が登場してきたとも言えない。

→「知の大空位期」ともいうべき状態

 

 人間が総合を行う「人文知」にかわる知、例えばコンピュータを使った数理的処理の技術に基づく「機械の知」が総合を行うような時代を迎えつつあると考えることも出来る。

……現在では、情報技術を使った知の組織化は進んでおり、人工知能の技術に基づいた知識創出なども広く研究されるようになってきています。それぞれの領域知の中に「考える人」たちが閉じ込められ、インタフェースはもっぱら「機械の知」が担うという分業が一般化する傾向があるのです。これは現代人の生活においても同様です。

(強調は筆者)

 →しかし普遍的な価値を問う役割を機械(メディア)に委ねることになれば、自らと世界との認識の契機を失い、深刻な「技術的無意識」を抱え込むことになる。

=ポスト・ヒューマン状況

 

 そのように「人間が終わった」今日の世界において、しかし、それでも「人間」の知としての「総合」を試みるという逆説的な営みを現在では私たちは求められているのかもしれません。

 もしそうだとすれば、それは「人間」の終焉以後、「人間」を〈(ポスト)人間〉として、知において「作り直す」ことを前提としたものでなければならない。

 →〈人間〉を思考しうる者としての〈来るべきユマニスト〉

 

……括弧付きの用語が多くてちゃんと理解するのが難しいな?

  • 「人間が終わった」=人間中心の世界理解が無効化した
  • 「人間」=思考の主体としての人間?
  • 「総合」=様々な領域における命題を結びつけ、世界を基礎付ける
  • 〈人間〉=(「機械の知」などを前提として)特権的ではない存在としての人間?
  • 「作り直す」=「人間」を、その特権性を放棄した上で世界の中に位置づけ直す

こんなかんじでいいだろうか。

 

 〈来るべきユマニスト〉の条件は次のようなものだと考えられる。

  1.  〈来るべきユマニスト〉は、メディア横断的な知を実践する者でなければならない。
    →ポスト・グーテンベルク状況への適応

  2. 〈来るべきユマニスト〉は、ポスト・モダンな「理性への懐疑」にとどまることはできない。
    →理性批判のシニシズムに陥らない。ポスト理性の時代において「理性」を復権するという意味で、「理性批判」を行わなければならない。

  3. 〈来るべきユマニスト〉は、他言語的で多文化的な教養に依拠する能力の持ち主でなければならない。
    →世界のクレオール化を担い、トランス・ナショナルな公共性を組織する。

  4. 〈来るべきユマニスト〉は、自然と人工、生命と数理、リアルとヴァーチャル、意味と計算、情報と記号、それぞれの「間」の関係づけを行いうる能力の持ち主でなければならない。
    →〈人間〉を認識の前提としての出発点ではなく、到達点であると再認識する。 

 

 パスカルの有名な言葉に「人間は考える葦である(ロゾー・パンサン;roseau pensant)」というものがある。

→これを「〈人間〉は考えるネットワークである(レゾー・パンサン;reseau pensant)」と言い換えてみると、ポスト・ヒューマン時代の〈人間〉の姿が見えてくるかもしれない。

 

 最後に〈知の横断〉についての述べた文章を引用し、このテキストを終わることにする。

 現代における〈総合知〉は、たとえば近代的な全体知の代表例であるヘーゲルの体系がそうであったように、統合的な総合による世界の基礎づけを行うことは出来ないのです。……。

 〈知〉が、総合性、全体性への希求を持つとすれば、それは文字通り、ネットワーク型の知、横断型の知を思考する限りにおいてなのです。どのような問いとのインタフェースを作り、知の諸領域を横断し、どのように世界の問題圏とコミュニケートしていくのか、〈知の横断〉こそが、「考えるネットワーク」としての〈来るべきユマニスト〉の戦略であり、〈非統合的な総合〉が〈新しい人文知〉の冒険の軌跡となるのです。

(強調は筆者)

 

 

【今回の三行まとめ】

  • 思想とは、様々な問題群を知り、そこで問われている人間の普遍的な価値に関わる問題を通して、自分の思考で世界を基礎付けていく試み・経験である。それは「総合」の知ということができる。
  • かつて「総合知」と位置づけられていた人文知は、現代の4つのポスト状況を迎えるにあたりその有効性を失ってしまった。「知の大空位時代」における新たな総合知のあり方を考えなければならない。
  • 〈来るべきユマニスト〉として4つの条件が考えられる。彼/彼女らは横断的・ネットワーク的・非統合的な知の総合を行うことでこれからの世界を基礎付けていく。

 

【今回の宿題】

  • 「人間」と〈人間〉の違い 

 

……最終回だけあってなかなかヘビーな内容でした。

 自分の考え方のクセというか傾向として、「常により広い視点から現在の行動の位置づけを考える」というところがあるので、こういう物事を根本から考えるような議論は好みであり、役に立ちます。

 範囲を広げすぎて迷子になってしまうのが困りものですが……。

 〈来るべきユマニスト〉に求められる条件の中で、「ポスト理性の時代において理性を復権する」というのが一番難しいように感じます。どうすればいいんでしょうかね?

 週明け月曜が筆記試験なので、少なくとも明日明後日は休みの予定です。そのあとは……どうしようかな。未定です。

 

それでは

 

KnoN(100min)

 

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