現代日本のコミュニケーション研究 まとめ(終)
大学行ったり散髪に行ったりしてたら夜になってしまった。
引き続き
現代日本のコミュニケーション研究(日本コミュニケーション学会、2011)
の
全体のまとめ
をやります。
第Ⅰ部 対人コミュニケーション
◯研究分野としての対人コミュニケーションは1960年代以降、社会学や心理学などから枝分かれする形で成立した。2000年代以降がその成熟期であり、さまざまなテーマが研究されるようになる一方で、自省的な議論も生まれるようになった。
→研究のパラダイムが整理され、「ポスト実証主義」「解釈主義的視座」「批判主義的視座」の3つの基本的な流れにまとめられた。
◯対人コミュニケーション能力にはさまざまな捉え方が在るが、「対人関係を円滑に運用するために必要な、効果的かつ適切なコミュニケーションを実践する能力」と定義することができる。それは「認知的コンピテンス」「情動的コンピテンス」「行動的コンピテンス」の3つの次元により構成される。
→研究は焦点の当て方により「特性論的アプローチ」「状況論的アプローチ」「関係性的アプローチ」に分類できるが、既存の研究では特性論的アプローチが大半である。
第Ⅱ部 組織コミュニケーション
◯組織コミュニケーションは1920年代のアメリカにおいてスピーチ・コミュニケーションの一分野として生まれた。1940~70年代の学問的位置づけの確認と統合の時代、70~80年代の成熟と変革の時代を経て、現在は多様化と学際化の時代に在るといえる。
◯主要な研究の方向性としては「モダニスト・アプローチ」「自然主義的アプローチ」「クリティカル・スタディ」「解釈学的研究」「ネットワーク視点」などがある。
→組織コミュニケーションの「構造」あるいは「対人関係」のどちらに注目するかで大別できる。
第Ⅲ部 異文化コミュニケーション
◯異文化コミュニケーション研究は二次大戦後から1970年代にかけて、国際化するアメリカ人の活動の現場からの要請を受けた具体的な教育実践として成立した。80~90年代に実証主義的な学問的な深化・一般化が進み、現在ではより根源的な批判から新しい異文化コミュニケーション研究のあり方が模索されている。
◯「コミュニケーション」「文化」は共に定義が多様であり、確定することが難しい。もともと言葉の定義には政治性が含まれている、学術対象となる前からさまざまな文脈で使われていた、などが理由として挙げられる。
→さまざまな文脈の中でどのような用いられ方をしているかという問いと関連づけながら、両者の関係は把握されなければならない。
→両者の関係としては「相互影響的」あるいは「重複的・共時的」と捉える考え方がある。
第Ⅳ部 コミュニケーション教育
◯コミュニケーションは「人間の意思形成・意志決定・意志対立が起こるダイナミックなプロセス」として捉えることができる。
→「道具としての言語」「背景としての文化」「動的プロセスとしてのコミュニケーション」の一体不可分な関係に留意しつつ、われわれの生活世界がいかに構築され、よりよく機能可能であるかについて検証することが、コミュニケーション学の使命である。
◯スピッツバーグはコミュニケーションの判断の指標として「効果性」「適切性」「適応性」を挙げ、それには「認知/知識面」「動機/感情面」「スキル/行動面」の3領域が深く関わるとした。
◯異文化環境におけるコミュニケーション能力の捉え方には「特定文化に限定した能力」とする見方と、「文化一般に適応できる(普遍的)能力」だとする見方がある。
→後者において異文化コミュニケーションは同一文化内にある対人コミュニケーションの延長にあると捉えられ、文化差が意識される時は異文化〜、個人的要素を見る時は対人〜、と認識される。
第Ⅴ部 レトリック
◯(古典的)レトリックはスピーチ・コミュニケーション研究の中心としてコミュニケーション学の中で大きな地位を持っており、「ソフィスト」「プラトン」「イソクラテス」「アリストテレス」「キケロ」などの理論的方向性がある。
→古代をレトリック研究の"源流"と捉え、その時期の実践・教育を"伝統"とする歴史の語りの問題点も含めて、現在でも様々な論争が行われ、レトリック自体の理解を深めることに寄与している。
第Ⅵ部 コミュニケーション学の問題系
◯近年、コミュニケーション学が研究対象としてきたものを反省的に捉え、新たに取り組むべき研究課題が提出されている。その際カルチュラル・スタディーズとして行われてきた取り組みが参考になると考えられる。
→イギリスの現代文化研究センター(the Centre for Contemporary Cultural Studies : CCCS)において、スチュアート・ホールらによってその研究実践が蓄積されていった。
◯昨今の技術の急速な発展に伴い、コミュニケーションを媒介するものとしての「メディア」、それを支えるものとしての「テクノロジー」の位置づけについても考え直す必要がでてきている。
→マクルーハンは「身体拡張説」を唱え、すべてのメディアは人間の能力の延長であり、従来の外的な拡張から現在は電子メディアによる「人間意識の技術的なシミュレーション(=内爆発)」へと移行しているのだと主張している。
◯フィッシャーは従来の「合理的パラダイム」に代わる「ナラティブ・パラダイム」を提案し、物語(narrative)という観点からコミュニケーション現象に接近することを提唱した。
→「論理」に対する「価値」、「討議」に対する「同一化」の重要性を再確認させ、自己や社会を書き換え可能な緩やかな統合体として捉え直すことを可能にした。
→しかし議論自体に曖昧な部分も多く、合理的パラダイムを乗り越えるものというよりは、併存・補完するものとして位置づけるのが妥当であると考えられる。
参考文献まとめ
- Knapp, Albada, & Miller (2002). Background and current trends in the study of interpersonal communication. Handbook of interpersonal communication(3rd ed.)
→1990年代までの対人コミュニケーションの発展史 - Baxter & Braithwaite (2008). Engaging theories in interpersonal communication: Multiple perspectives.
→2000年代におけるパラダイム整理 - Spitzberg & Cupach (1989). Handbook of interpersonal competence research.
→対人コミュニーション能力全般 - 板場良久(2010)「文化を定義することの困難さ」『よくわかる異文化コミュニケーション』
- 岡部朗一(1993)「コミュニケーションの定義と概念」『コミュニケーション論入門』
→コミュニケーション・文化の定義 - 鈴木健・岡部朗一(2010)『説得コミュニケーション論を学ぶ人のために』
→ダイナミックなプロセスとしてのコミュニケーション - Spitberg (1988). Communication competene: Measures of perceived effectiveness. A handbook for the study of human communication: Methods and instruments for obserbing, measuring, and assessing communication processes.
- Spitzberg & Cupach (1984). Interpersonal communication competence.
- Ting-Toomey (2009). Intercultural conflict competence as a facet of intercultural conpetence development: Multiple conceptual approaches. The SAGE handbook of intercultural competence.
→コミュニケーション能力の主要構成要素 - Spitzberg & Changnon (2009). Conceptualizing intercultural competence. The SAGE handbook of intercultural competence.
→異文化コミュニケーション能力に関する研究の総体的整理 - Hall (1980). Encoding/decoding. Culture, media, language: Working papers in cultural studies, 1972-1979.
→メッセージのコード化/脱コード化における重層性のモデル - Fisher (1984). Narration as a human communication paradigm: The case of public moral argument. Communication Monographs, 51.ほか
→「ナラティブ・パラダイム」概念の提唱 - Mitchell (1990). Representaion. Critical terms for literary study.
=1994, 「表象」『現代批評理論ー22の基本概念』
→コミュニケーションにおける表象
……つ、疲れた。
でもその甲斐はあったような。自分がこの本から学んだことと、ここから先に学ぶべきことが簡潔にまとめられたと思う。
あとはこれらのコミュニケーション学の世界における問題意識の系の中に、自分自身の問題意識をどう位置づけていくか。自分が何を明らかにしたいと思っていて、それは全体の中でどういう意味をもつ問いなのかを考えていかなければ。
それでは
KnoN(180min)