談話と対話 その3
1月のまとめはまた今度。
少し間が空きましたが、引き続き
談話と対話 (言語と計算)(石崎雅人ほか、2001)
の
第4章 計画認識
をやります。
第4章 計画認識
◯(行為)計画の立案/認識とは、内面の意図と外的な行為の間を結ぶ推論のことである。聞き手が話し手の計画を十分に認識することにより、字義的な内容にとどまらない理解が得られ、話し手が求める「適切な応答」を行うことができる。
- 計画立案=目標状態を達成するための行為系列の計算、発話産出のモデル
- 計画認識=行為から目標状態に至る立案過程の推論、発話理解のモデル
→字義的理解にとどまらない発話の処理が行えるようになる
◯(行為)計画は計画演算子(オペレータ)を、目標状態を達成するように組み合わせることによって立案される。聞き手は計画推論規則や評価ヒューリスティクスを利用して、話し手の心的計画を再構築する。
計画立案とは「目標状態を達成する行為系列を求める」ことであり、それは計画演算子(オペレータ)の組み合わせとして記述される。*1
オペレータには次のような情報が含まれる。
→言語行為においては、これらはサールの「発話内行為遂行の5条件」*2に対応する。
- 前提条件:計画実行のために成立している必要がある条件
- 制約:計画が適切であるために守られている必要がある条件
- 行為本体:効果を達成するために実行する基本行為
- 効果:計画によって達成される(目標)状態
計画認識とは「言語行為からその背後にある話し手の計画立案過程を推論する」ことであり、以下の3種類の推論を用いて行う。
- 話し手の発話から、その「意図」を推論する。
- 話し手の発話から、「話し手が持っている問題領域に関する計画」を推論する。
- 1と2の関係づけを推論する。
⇒理解に自信がないので補足を入れる。
まず「字義通りに捉えてその発話が何を求めているものなのか」を考える。これが「意図」=一次の目標。
次に「話し手が最終的な目標として何を達成したいと計画しているのか」を考える。これが「話し手が持っている問題領域に関する計画」=二次の目標。
最後に「発話によって求めようとしている効果が、全体の計画の中でどこに位置付けられているのか」を考える。これが「1と2の関連づけ」。
⇒「2の段階では発話内容とは独立に話し手の計画を推測する」ということなんだろうか?
推論には次のような規則が一般に用いられている。
計画推論規則
- 計画に関するもの
・前提条件ー行為
・行為本体ー行為
・行為ー効果
・目標ー行為- 知識に関するもの
・真知識
・偽知識
・値知識
・項知識- 他の主体の計画立案に関するもの
・行為ー前提条件
・行為ー行為本体
・効果ー行為
・知識
計画認識過程の各ステップにおいて、可能な推論結果が複数得られる場合がある。このような場合、直観的あるいはゆるい基準による判断(=評価ヒューリスティクス)によって優劣をつけ、推論を進める。
計画認識によって話し手の計画や目的を得ることができれば、次のようなことが可能になる。
- 話し手の行為の適切な解釈に基づく応答生成
- 話し手の目標達成を助けるための応答生成
- 話し手の目標達成の障害を除去するための応答生成
◯実際のコミュニケーションは多数の発話からなる談話によってなされる。談話の進行を複数の計画スタックの生成/完了の繰り返しだと捉えることで、談話全体の計画を推論することが可能になる。
談話計画とは(これまで検討してきたような)問題領域の計画とは独立して立案される、談話をどう進めていくかについての計画である。
談話計画は次のようなオペレータを組み合わせることで立案される。
- 話題の変更→新しい話題の導入、それまでの話題からの発展
- 話題の継続→自分の次行為の遂行、相手の行為への追随
- 内容の明確化・修正→行為中の不明点の同定、現在の計画の不具合の修正
談話計画を利用した計画認識は、次の3種類の推論の繰り返しによって行われる。
- 相手の発話から談話計画について推論する
- 談話計画の制約から、現在話題となっている問題領域の計画を決定する
- 問題領域の計画について推論する
→談話の中では複数の話題(=問題領域の計画)が時に重なり合うようにしながら進行する。
⇒個々の話題を「計画スタック」として捉えると、談話の進行は「その時々に現れているスタックを推測し、そのスタックを進め、スタックの切り替えを繰り返しながら、最終的にすべてのスタックを空にする」過程であると言える。*3
談話計画の進行過程は次のような情報を手掛かりとして推測できる。
- 話のつながり具合:話題(スタック)は「継続>明確化>転換」の順で進みやすい
- 計画スタックの状態:あるスタックが空になれば次の話題(スタック)が導入される
- 合図句:話題(スタック)の扱いを明示する
- 計画推論規則:前述のもの、こちらにも利用可能(らしい)
【今回の宿題】
- 計画認識の3種類の推論
- 談話計画の推論、特に「計画スタック」概念の定義
……先週は煮詰まっちゃってうまく咀嚼できなかったが、週末にリフレッシュしたおかげがなんとか納得のいくレベルで整理することができた。
本文では各種推論の過程もより形式的な式変形として示されているのだが、例によって記事ではカット。手間がかかるし、そこまで細かく詰めるのは連載の趣旨ではない。
続きも頑張ります。
それでは
KnoN(100min)
- 作者: 田窪行則,三藤博,片桐恭弘,西山佑司,亀山恵
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1999/03/25
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
*1:情報の表現と論理 - KnoNの学び部屋 3 思考
*2:談話と対話 その1 - KnoNの学び部屋 第2章 言語使用の基礎理論
*3:ここの解釈は誤っている可能性がある。
本文中に「計画スタック」の明確な定義がないことが原因。
ここでは「計画スタック=話題=問題領域の個々の計画」だと解釈して談話の進行を定義した。