ストーリーデザイン研究会 その2
梅雨なんだか夕立なんだか、とにかくよく雨が降る季節。
今日も予報では降るらしいが、今のところは大丈夫。はたしてどうなる?
予告した通り、ストーリーデザイン研究会(SDS)の第2回研究会の活動を記録しておきます。
※本記事は「スーパーマリオ64」、「チョロQワンダフォー」、「Forget me not -パレット-」、「天翔けるバカ」シリーズのネタバレを含みます。ご注意ください。*1
テーマ:物語分析の実践
前回は『ストーリーメーカー』をテキストとして、「物語を構造から考える」視点の基礎を学びました。
その実践として、様々な形態で表現される「ストーリー」の構造分析を試みます。
用語などは3.『ストーリーメーカー』の各記事をご覧下さい。
※当初はそれなりに具体的に書こうと思いましたが、あまりに説明しなければ行けないことが多すぎて断念しました。結論だけ軽く。
1. スーパーマリオ64
◯概要
マリオシリーズの3D初作品。NINTENDO64本体と同時発売。箱庭空間を自由に跳び回れる操作性・表現力が注目を集める。
マリオがクッパを倒してピーチを助ける、という身もふたもない話。
◯構造分析
「主人公」が「敵対者」による「対象者」への加害が起こる。
それを取り戻すため「非日常」で「先立つ働きかけ」をこなして「魔法の手段」を「獲得」し、新たなステージへ「空間移動」することを繰り返す。
最終的に「勝利」し、「加害を回復」して「最高の栄誉」を受ける。
◯考察
- アクションゲームにも「物語もどき」のような構造はある。
- ただしそこには「主人公の成長」がない。
- プレイヤーが操作すること自体を楽しむ中で行動に指針を与える枠組として「物語の外的な構造」が利用されている。
- 主人公=プレイヤーとするメタ的な構造も存在する?
2. チョロQワンダフォー
◯概要
タカラ(現タカラトミー)の玩具「チョロQ」をモチーフにしたゲームの4作目。従来のレースにRPGの要素が追加された。
チョロQ自身が意思を持つ世界で、RPG的な世界の探索とレースゲームを繰り返しながらワールドチャンピオンを目指す。
◯構造分析
「主人公」は世界一を決めるレースで勝つことを望んでいる。(「内的欠如」)。ところがその参加に必要な大切なものを不注意で壊してしまう(「外的欠如」)。
レースに参加するための予選をこなしながら、それを「回復」させるための方法を探して各地を旅する(「出発」)。そして「先立つ働きかけ」をへて「魔法の手段」を「獲得」し、「最も危険な場所」へ「空間移動」する。そこで「最大の試練」に直面し、「報酬(=外的欠如の回復)」を得る。
戻ってきた(「気づかれざる帰還」)主人公は改めてレースで「偽の主人公」と競い、「難題」「解決」「認知」をへてワールドチャンピオンとして「即位」する。
◯考察
- レーシング"RPG"ということで当然「物語」の基本要素は備えている。
- プロップで重視され、ボグラーなどでは省略されがちな「主人公の同一性」確認のステップをしっかりと取り入れている点が特徴的。
3. Forget me not -パレット-
◯概要
もとはRPGツクールで作成されたフリーゲーム。コンテストで優勝し、PSに移植(リメイク)された。内容はほぼ同一。
精神科医が記憶を失った少女のカウンセリングを通して彼女の記憶を取り戻し、同時に過去にあった凄惨な事件の真相が明らかになっていく。
(参考 Forget me not パレットとは (フォーゲットミーノットパレットとは) [単語記事] - ニコニコ大百科)
◯構造分析
「主人公(精神科医)」は「使者」に少女の記憶を取り戻す(「欠如」)ように「依頼」される。*2
「非日常(少女の精神世界)」の中で"記憶の断片"と呼ばれるアイテムを集めながら、徐々にその行動範囲を広げていく(「魔法の手段の獲得」と「空間移動」)。
しかしカウンセリングが進むにつれ精神科医の身の回りに異変が起き、彼に取っての日常と少女の精神世界が混濁するような現象が起きるようになる。
最終的に少女が完全に記憶を取り戻したとき(「欠如の回復」「最も危険な場所への接近」)、これまで「主人公」だと思われていた精神科医自身が少女の別人格であったことが明らかになる(「複雑化」)。
真の「主人公(少女)」は記憶を取り戻し、「シャドウ(精神科医)」と一体化する(「再生」)。家族との関係性(「欠如」)も回復し、母親のいる"日常"に「帰還」する。
◯考察
- 一筋縄では行かない入り組んだストーリーだが、分解すれば「物語」の基本要素からなっているとわかる。
- ストーリー中での"役割"の交代が読者(プレイヤー)に大きな衝撃を与える。
→精神科医:主人公→シャドウ、少女:対象者→主人公 - 精神科医は、真の主人公である少女からみると複数の"役割"を兼ねている。
→(仮の)主人公、使者、贈与者(賢者)
4. 「天翔けるバカ」シリーズ
天翔けるバカ―We Are The Champions (コバルト文庫)
- 作者: 須賀しのぶ,梶原にき
- 出版社/メーカー: 集英社
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◯概要
少女小説家でありながら軍事ものを得意とする作家・須賀しのぶによる空軍ストーリー。
偉大なる「バカ」であるアメリカ人の青年リックが婚約者とのケンカをきっかけにヨーロッパに渡り、第一次世界大戦の戦闘機パイロットとして活躍していく。
全二巻。第一巻はリックのパイロットしての成長を、第二巻は敵国ドイツのエース、レッドバロンが時代に翻弄される様を描いている。
(参考 須賀しのぶ - Wikipedia)
◯構造分析
<第一巻:flying fools>
アメリカに住む「主人公(リック)」は婚約者にバカにされ、自尊心を傷つけられた状態でヨーロッパに渡る(「欠如」と「越境」)。
見返してやろうと義勇兵として空軍に入るが、失敗してライバル(「仲間」)に助けられる。やがて任務を重ねるたびにライバルとの絆も深まっていく(「先立つ働きかけ」と「獲得」)。
敵国のエース(ゲーリング)(「シャドウ」)との交戦の中でライバルが捕虜になる(「対象者」と「(外的)加害」)。
新たな機体(「魔法の手段」)を得た「主人公」は「シャドウ」との一騎打ちに望み、才能を開花させる(「最も危険な場所への接近」「闘争」「報酬」)。
エースとなり自尊心を満たされ、ライバルからも良き友として認められる(「欠如の回復」「即位」)。
<第二巻:We are The Champions>
「主人公(レッドバロン)」は悪化する戦況の中で、自身の望む騎士としての生き方と総力戦の戦場で要求される新しい戦い方との乖離に悩む(「欠如」)。
「主人公」は新しい戦い方を受け入れる「シャドウ(弟)」に対し、「お前の方が正しかった」と認める(「闘争」→"敗北")。
「主人公」は夢(「成長へのためらい」)の中で自身がもはや騎士ではないことを悟る(「欠如の回復」の不可能)。
「主人公」は戦死する(「物語」の破綻)。
前作の「主人公(リック)」は終戦まで無事に戦い抜き、戦後はライバルの実家を尋ねることにする(「帰還」)。
◯考察
- <第一巻>は典型的な「主人公の成長物語」の構造をもっている。
→したがって「第一次世界大戦」という舞台設定でなくとも成立する。 - 転機にキャラクターとしての「賢者」が現れる代わりに、主人公の「バカ」な性格がその行動の指針として作用しているのが特徴的。
→渡欧の決断、新機体の入手は「バカ」さゆえのこと。 - 一方<第二巻>は「時代に翻弄され、成長できなかった主人公」を描く「物語」だと言える。
- 「主人公」の行動によらず、すでに全体としてどのような結末となるかが決められている。
→「第一次世界大戦」という史実の共通理解がなければ成立しない。 - 「主人公(レッドバロン)」は「日常(騎士としての戦争)」と「非日常(総力戦の戦争)」の自分の一体化に失敗したため、「主人公」として"失格"してしまった。
→「賢者」の不在? - 前作の「主人公(リック)」はこのストーリーの中ではあくまで"傍観者"となっている。
次回の活動内容:分析実践リトライ
今回は4作の構造分析を行ったが、それぞれの原作に対する理解の不十分・構造分析への未習熟から物足りなさも残る結果となった。
次回は「特定の作品」「特定の方法論」で分析してきた結果を互いに発表しあい、より理解を深めることを試みる。
【今回の三行まとめ】
- アクションゲームにも、プレイヤーに行動の指針を与えるための「物語もどき」が必要。
- ストーリーの中の"役割"の交代=「物語構造」の更新が受け手に衝撃を与える。
- 「主人公」が"成長に失敗"してしまう物語もある。
【今回の宿題】
- 主人公=プレイヤーとしたメタ視点での分析
- 「失格する主人公」が成立する条件
……「結論だけ軽く」書こうとしてもこれだけの量になってしまいました。
「様々なジャンルのゲームにおいても、ストーリー性が入る余地がある」「主人公が成長しない物語もある」などと、なかなか面白い考察も得られたのではないかと思います。
次回も楽しみですね。
それでは
KnoN(--min)