KnoNの学び部屋

大学に8年在籍した後無事に就職した会社員が何かやるところ。

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学 その3

寝坊しましたが、お昼に作ったペペロンチーノが美味しかったので気分は上々です。

……ちょっと辛すぎたけど。唐辛子の量には注意。

 

継続して

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学(菅原晃、2013)

をやっていきます。

 

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学

 

 

 

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学

 

 

 

今回は前回に引き続き貿易の話

第3章 貿易黒字について

です。

 第3章 貿易黒字について

「貿易黒字と、経済成長は無関係」*1

  まずはこの命題について検証していく。

 

GDP三面等価の式から検証する

前回確認したように、

貿易黒字(輸出超過;a trade surplus)

=モノ・サービスのやりとりにおいて、輸出が輸入を上回っていること。

貿易赤字(輸入超過:a trade deficiet)

=モノ・サービスのやりとりにおいて、輸入が輸出を上回っていること。

 

また、

   経常収支(貿易収支を含む)+広義の資本収支=0

 

したがって、

   貿易黒字=国内のモノを外国に持っていっている

       =国内の資産を外国に貸し付けている

       =外国への資金の貸出額

となる。

 

GDP三面等価の式(Y=C+S+T=C+I+G+(EX-IM))からみても、

   総生産=Y

   総消費=家計の消費C+企業の投資I+政府の活動G

から、

   総生産ー総消費(=国全体での貯蓄超過)

  =Y-(C+I+G)

  ={C+I+G+(EX-IM)}-(C+I+G)

  =EX-IM

  =貿易収支(黒字)

となると分かる。

 

つまり、

日本が「貿易黒字」を生み出すのは、日本人が、その支出を、所得以下に抑え、余りを海外に投資した結果

ということになる。*2

 

景気が良かろうが悪かろうが、「国内において総生産>総消費」なら貿易黒字、ということ。

 

……うん、ここまでは理解できていると思う。

 

ISバランス式から検証する

次に、ISバランス式から景気の変動と貿易収支の変動の関係について検証してみる。

   S-I=(G-T)+(EX-IM)   ;ISバランス式

S:貯蓄、I:投資、G-T::公債(政府活動の不足分)、EX-IM:貿易収支

 

前提として「景気変動に最も影響がある要因は投資Iである」ということを用いる。

→好景気なら、企業は消費の拡大(売り上げの増加)を見込んで設備投資を増やす。それが日本全体の消費を刺激し、さらなる拡大に繋がる。

→しかし需要が横ばいになると、設備投資の必要性もなくなり、消費を刺激するものがなくなる。不景気になる。

 

ここでISバランス式を考えると、次のような論理が成り立つ

   好景気→投資I増加→左辺縮小→等式なので右辺も縮小→財政赤字(公債;G-T)も貿易黒字も減少

   不景気→投資I減少→左辺拡大→等式なので右辺も拡大→財政赤字(公債;G-T)も貿易黒字も増加

したがって、「不景気になると貿易黒字が増える」ということ、らしい。

 

⇒ここにちょっと突っ込みたい。右辺縮小/拡大までは良いけど、「片方が微増/微減でもう片方が大幅減/増」というパターンもあるんじゃない?

 

そもそも「資本収支黒字」ってどういうこと?

今の日本に着目してみると、長く続いた貿易黒字の時代は終わって、2011年から貿易赤字。これはエネルギーコストが一番の原因だから、一時的なものじゃなくてこれから先もしばらくは続く見込み。つまり日本は「貿易赤字国」として考えた方が良い。

   経常収支(貿易収支を含む)+広義の資本収支=0

なので、

   貿易収支赤字=資本収支黒字

となるわけだけれど、そもそも「資本収支黒字」ってどういう状態なのか?

 

この、日本の資本収支黒字(経常収支赤字)増というのは、世界が日本の国債社債を買い、日本株に投資し、日本の銀行に預金した、その総額が増えたということです。

日本の資本収支黒字(経常収支赤字)増は、このグラフにおける「負債残高」=「外国の持っている日本国内資産」が増えるということです(日本も、海外投資を続けていますから、日本の対外資産が減る訳ではありません)。

前回説明したように、「対外債務というのは必ずしも返さなければいけないものではない」 。

⇒日本国内のものを、日本が買い戻そうとするときに代金が必要なので「債務(負債)」と呼ばれている?

 

⇒つまり貿易とは国が持っている資産の内訳が変化することであって、持っているもの全体の価値が減ったり増えたりすることではない、ということなんだろうか。

 

貿易はゼロサム・ゲームではない

世界の経済規模自体は拡大しており、輸出入も右肩上がりに増大している。

生産が増えているのだから消費も投資も資産の移動も増える。

そこには勝者も敗者もいない。

それにもかかわらず「日本は中国に負けている」などという言説がまかり通るのか。

→マクロな事象を、ミクロな考え方で捉えているから(合成の誤謬)。

 

⇒例えば前々回の売れ残りの話にしても、確かにミクロの観点では売れ残りが出たって致命的な問題ではない気がする。しかしそれが積もり積もって経済全体の話になってくると、企業が活動するための元手となるものが「在庫」という形で固定化されて回らなくなってくる。だからなんとしてでもモノを消費してお金に換えないといけない、と分かる。

(テキストではこの辺りで「家電製品のシェアの話」とか「産業空洞化の話」とかがあったんだけど、ここでは割愛)

 

貿易収支に意味はない?

実は、国と国で区切って、輸出入をはかることに、もうあまり意味はありません。なぜなら、企業自体が多国籍化しているからです。

→メーカーなどが生産拠点を人件費が安い海外に持つことはもはや常識になっている。日本のメーカーが異なる国でそれぞれ部品を生産し、どこかの国でまとめて組み立て、日本に持ってきて販売する場合でも、それぞれ「輸入」「輸出」としてカウントされる。

→看板が日本の企業でも、入っている資本(株主とか)が外国人のケースも数多くある。実質的に外国の資本で取引しているのに 、日本での経済活動としてカウントされる。

→多国籍企業の「企業内貿易」が世界のGDPの中でもかなりの割合を占めている現在、国別の貿易収支をあれこれすることに意味はない。

 

⇒かつてのオーストリアハプスブルク帝国は「領域内分業」をして国内で経済を完結させていたけど、それと逆のことがおこっていると見るべきなのか。それとも帝国=世界経済、各地域=各国と置き換えてみると、本質的には同じことをしているともいえるのだろうか。

 

まとめ・社説につっこみをいれてみる

テキストではこの章の最後にとある社説を取り上げ、「経済学的思考を身につけたみなさんにはこの記事に違和感を覚えることと思います」としています。

というわけで、練習としてここでもその社説に突っ込みを入れながら読んでみましょう。

社説「巨額貿易赤字 輸出力の強化と原発再稼働を」読売新聞2013年1月27日

「貿易立国」としての日本の土台が揺らいでいる。官民で巻き返しを図らねばならない。

 輸出額から輸入額を差し引いた2012年の貿易収支は、過去最大の6.9兆円の赤字だった。第2次石油危機直後の1980年に記録した2.6兆円を大きく上回った。

 東日本大震災の影響で31年ぶりに貿易赤字に転落した一昨年と比べても2.7倍に増えた。極めて深刻な事態である。

 要因は、欧州危機や中国経済減速に伴い、輸出が減少する一方、輸入が急増したことによる。……

 海外への投資による配当や利子の受け取りを含めた経常黒字は続いている。だが、巨額の貿易赤字が慢性化すると、いずれ経常収支も赤字転落が懸念されよう。

「貿易立国」の立て直しにまず必要なのは、輸出拡大につながる製造業の競争力強化である。

 電機業界は、薄型テレビや携帯電話市場などで韓国メーカーなどに出遅れた。成長市場である医薬・医療機器分野でも、年約3兆円の輸入超過になっている。……

 貿易赤字の背景には、コスト高を回避するために、製造業が拠点を海外に移転し、国内空洞化が加速している事情がある。……

 一方、輸入を減らすために最も重要なのは、安全性を確認できた原発の再稼働を急ぐことだ。火力発電に依存する状況が長期化するほど、LNGの輸入額が増えて国富が資源国に流出する。

 為替市場で超円高が是正され、円安が定着してきた。輸出企業にはプラスだが、円安が行き過ぎるとLNGなどの輸入額を一段と急増させる。これにも要警戒だ。

 

  • 輸出額から輸入額を差し引いた2012年の貿易収支は、過去最大の6.9兆円の赤字だった。第2次石油危機直後の1980年に記録した2.6兆円を大きく上回った。
    ⇒事実の提示。

  • 東日本大震災の影響で31年ぶりに貿易赤字に転落した一昨年と比べても2.7倍に増えた。極めて深刻な事態である。
    ⇒「極めて深刻な事態」かどうかはわからない。
    ⇒それにしても「1980年以来31年ぶり」ってことは石油危機の時も赤字は一年だけだったのか。

  •  要因は、欧州危機や中国経済減速に伴い、輸出が減少する一方、輸入が急増したことによる。……
    ⇒まあ、そのとおりだよね。

  • 海外への投資による配当や利子の受け取りを含めた経常黒字は続いている。だが、巨額の貿易赤字が慢性化すると、いずれ経常収支も赤字転落が懸念されよう。
    ⇒「赤字転落」したところで何が問題になるのか。それは「懸念」なのか。

  • 「貿易立国」の立て直しにまず必要なのは、輸出拡大につながる製造業の競争力強化である。
    ⇒そもそもなにをすれば「貿易立国」なのか。

  • 電機業界は、薄型テレビや携帯電話市場などで韓国メーカーなどに出遅れた。成長市場である医薬・医療機器分野でも、年約3兆円の輸入超過になっている。……
    ⇒「出遅れた」かはともかく、事実ではある。

  •  貿易赤字の背景には、コスト高を回避するために、製造業が拠点を海外に移転し、国内空洞化が加速している事情がある。……
    ⇒「日本の企業が儲かっている」という点に関しては問題ないはず。国内の雇用の問題はおいていかれているけど。

  • 一方、輸入を減らすために最も重要なのは、安全性を確認できた原発の再稼働を急ぐことだ。火力発電に依存する状況が長期化するほど、LNGの輸入額が増えて国富が資源国に流出する。
    ⇒「国富が流出する」ってどういうことなんだろう。お金を払う代わりに同価値の資源を受け取り、それをさらに加工して国内なり海外なりに売っている(お金を貰う)訳だけど。

  • 為替市場で超円高が是正され、円安が定着してきた。輸出企業にはプラスだが、円安が行き過ぎるとLNGなどの輸入額を一段と急増させる。これにも要警戒だ。
    ⇒輸入額が増えることが「要警戒」なのかはともかく、円安なら輸入コストが上がるのは事実。

……うーん、入力するの疲れた。

 

【今回の三行まとめ】

  • 「貿易黒字と経済成長は無関係」という命題は、GDP三面等価式、ISバランス式から検証できる。
  • 貿易とは国が持っている資産の内訳が変化することであって、持っているもの全体の価値が減ったり増えたりすることではない。
  • 多国籍企業の「企業内貿易」が世界のGDPの中でもかなりの割合を占めている現在、国別の貿易収支をあれこれすることに意味はない。

まとめまで書いたあとだけれど、気になっている点をいくつか。

  • ISバランス式のところの説明
  • 生産拠点が海外に行ったときの、国内の雇用の問題。
    ⇒テキストでは「海外で雇用拡大している企業は国内においても従業員数を増やしている」と説明し、グラフでも示しているが、どうしてそうなっているかよくわからない。しっくりこない。
  • そもそも「貿易立国」ってなんなのさ。
    ⇒「貿易で国が立つ」は実現したことあるの?

例によって宿題ということで。メモだけ残しておきましょう。

 

……今日もまた大作に。

本当は昨日の分とあわせて一回でやろうと思ってたんだけど、なんという見通しの甘さでしょうか。

というか一日のうち3~4時間くらいこのブログ書くのに使ってるけど(テキストの勉強含む)、大学院の講義が本格的に始まったらどうなるんでしょうかね。

 

ほんのり不安を感じつつここで終わります。

 

それでは

 

KnoN(作成時間120min)

 

*1:「貿易黒字が増えたから経済が成長するわけではない」という意味において

*2:かつての行動経済成長の原動力は貿易黒字ではなく、国内市場(内需)の拡大によるものである、とのこと