高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学 その4
恐れ多くも著者の方から直接コメントを頂いてしまいました。
最初は「うかつなことは書けないなー」とか思いましたが、逆に間違ったこと書いたら突っ込みを入れてもらえるということ(かもしれない)なので、今まで通り自然体でやりたいと思います。
引き続き
高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学(菅原晃、2013)
の
をやっていきます。
第4章 リカードの「比較優位論」
「自由貿易によって、全ての国が利益を出ることができる」
この命題を検証する。
貿易のメリット
貿易を意味する英単語はtrade、これはそもそもは「交換」という意味を持つ。
→貿易とはたまたま国境を越えて行われる「交換」であり、貿易のメリットはそのまま「交換」のメリットを表す。
→では交換のメリットとは何か?
例として自分たちの日常生活を考える。
例えば自身が「塾の先生」として、教育というサービス(8時間/日の労働)の代価として20万円分の賃金を得ているとする。
→その20万円の中から光熱費や家賃、食費や必要なものの代金を支払う。
→自分で20万円分生産し、20万円分購入(消費)する。これが「交換」である。
しかし仮に全て自給自足で賄おうと考えた場合、一日の8時間の労働を電気やガスの生産、水の調達、住居の建設、食料の調達などに少しずつ振り分けなければならない。
→それは非効率であり、そもそも不可能である。
つまり「自給自足」するよりも、「特化し、分担」したほうが、効率よく生産し、消費できる。
→交換することにより、「より豊かな消費生活」を実現できるのである。
同時に、「なぜ働くか」の理由の一つが、ここにあります。私たちが働くのは、「消費」のためです。生活(消費)するために働きます(生産)。生産するために消費するのではありません。この点は重要なことです。
……ここまでの理屈は理解できる。
個人的には「欲しいものが売ってない(手に入らない)ときには自分で作ってしまおう」という発想が強いので、何でも分担・分業というのは違和感があるけど、要するにここでの議論では生産物の質とかは考慮していないんだろう。
⇒というかこれはミクロ的なものの見方かな。「合成の誤謬」に注意。
「比較優位」と「絶対優位」
特化・分業の方がより豊かに消費できることが分かった。
ではそれぞれは何に特化するのが最も効率が良いのか?
→「比較優位」という考え方が、この疑問に答えを与えてくれる。
まず「優位」には「絶対優位」と「比較優位」があることを峻別しなければならない。
絶対優位=あるプレイヤーAと別のプレイヤーBとを比べたときに、あゆるる面での生産性において、AがBを上回っている状態
比較優位=あるプレイヤーAと別のプレイヤーBとを比べたときに、ある分野αでの生産性の「プレイヤー内での相対的な有利さ」において、AがBを上回っている状態
(参考 比較優位 - Wikipedia)
⇒複数の分野(α、β、γ)の生産効率をそれぞれのプレイヤーの中で比較するとする。
プレイヤーA:αA>βA>γA
プレイヤーB:γB>βB>αB
ここで仮に全分野の生産効率がB>Aだったとしても(αB>αAでも)、分野αについてはプレイヤーAはプレイヤーBに対し「比較優位をもっている」と言える(……でいいのかな)。
……理解しているつもりなんだけど、日本語で簡潔にまとめるのは難しい。誤解が多いところであるというのもうなずける。
⇒結局のところ「その人の中で、最も自分の能力を活かせる分野」が比較優位を持つといえばいいのかな? 能力を活かせる=生産効率が高い、という意味で。
自分の拙い説明で誤解を招くのもあれなので、エッセンスをまとめた文章をテキストから引用しておく。
比較優位とは、相手国との競争力比較のことではなく、国内産業における「生産性」競争のことなのです。
一国経済における生産性上昇率の相対的な順位が重要なのです。したがって、比較優位にもとづく産業・貿易論の本質は“ランキング競争”であるといえます。……
ある輸出産業や企業に取ってのライバルが存在するとすれば、それはむしろ日本国内において台頭する、優れた商品分野であり、あるいは成長産業そのものであって、本当は海外の製品ではないのです。
リカードの比較優位論
比較優位論
「特化前は、生産量≧消費量だったものが、特化後は生産量<消費量となり、消費者効用が増大する」*1
テキストではここで「イギリス・ポルトガル・ワイン・毛織物」の例を使ってそれを実証しているのだが、他のところでも使われる例示&テキストをそのまま読んだ方が分かりやすい、と思うのでここでは割愛する。
→簡潔にまとめると、
- 両国が得意とする商品の生産に特化すると、世界全体の生産量が増える。
- 生産量<消費量となると、実質所得が増え、商品購入の選択肢が拡大する(=消費者効用が増す)。
→最終的な結論として、どんなに生産効率が悪い国でも、貿易により利益(消費者効用の拡大)を得ることが出来る、となる。
……ここでちょっと「実質所得が増える」というところだけ分からない。
⇒いや、「自分で生産した以上に消費できる」ということを言い換えただけか。自分で100のモノを生産して、それで120のモノを消費できたら、実際は120相当の所得を得ていることになる。
ポール・クルーグマン『良い経済学悪い経済学』(2008)
経済学入門では、貿易とは競争ではなく、相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として、輸出ではなく、輸入が貿易の目的である(「豊かに消費する」ために)ことを教えるべきである。
(括弧内は筆者)
輸出と輸入は表裏一体、という実に当たり前のこと
比較優位産業に特化するということは、比較劣位産業を縮小するということである。
前者の効率よく(=国内で消費する以上に)生産したモノを輸出し、後者の国内での生産を諦めた(=輸入した方が効率的な)モノを輸入する。
→国内のリソースは限られているので、特化を進めれば進めるほど比較劣位産業の縮小も進んでいく。つまりその分野では自給率が低下していく。
→輸出が増えれば増えるほどに、輸入も増えていくのである。
かつて世界史の中で「重商主義」(=輸出を伸ばし、輸入を抑えることが国の発展に繋がる)という経済政策が流行ったことがあったとならったが、これはどうやら根本から成立しないものであるもののようだ。*2
(参考 重商主義 - Wikipedia)
消費者利益に立つ経済学、生産者利益に立つ政治
リカードの比較優位説は「自由貿易の拡大は消費者効用を増大する」ということを示している。つまり消費者利益を重視した考え方である。
→前項で説明したように、比較優位の特化と比較劣位の縮小は同時並行に起きる(というかそうじゃないと成り立たない)。では、比較劣位とされた産業の生産者はどうなるのか?
経済学的に見るとどうしようもない(比較優位産業に移ってくれた方が効率がいい)が、単純労働者ならともかく熟練労働者がそう簡単に業種を変えるわけにも行かない。
→政治の場で自分たちの利益を主張し、生活を守ろうとする、となる。
つまり、国内産業の保護は、経済学ではなく政治的な問題、なのである。
……まあ、そりゃそうだよね。「既得権益」とかいうと悪いイメージが強いけど、「みんなの広く薄い利益のために君たちだけが涙を飲め」とかいわれて受け入れられる人はいないでしょう。ここの議論で取り上げられていない「質」の側面でなんとか打開策を探っていくしかないのかな。
【今回の三行まとめ】
- 貿易(交換)の目的は、「豊かに消費する」こと。
- 比較優位(自分の得意分野)に注力することで全体の効用が増加する(=全ての参加国が利益を得られる)
- 国内産業の保護は経済学というより政治の問題。
……今回はまとめやすかったな。
【今回の宿題】
- 比較優位説では取引されるものの「質」の側面を無視している?
⇒途上国ではどうしても品質に限界があるはず。輸入する側の最低限のクオリティを越えていないと、「安かろう悪かろう」で結局買ってもらえないことになるのでは? - Wikipediaによると環境問題の質の変化、労働技能の専門家により「リカードの前提自体が非現実的」になっているらしい。
⇒学んだことが「化石」になっていないかきちんとチェックしておく必要がある。
……なんだかこれも定番のコーナーになってしまった。とりあえずメモしておくところ。
……回を経るごとにかかる時間が増していっている気がするよー?
今回は比較優位のところをしっかり理解するのに時間がかかりました。
書いちゃ消し書いちゃ消し、これでも正しく上手く説明できているか自信がありませんが。
今扱っているテキストもあと2章なんで、最後まで気を抜かずに行きたいと思います。
それでは
KnoN(130min)