KnoNの学び部屋

大学に8年在籍した後無事に就職した会社員が何かやるところ。

哲学入門 その5(前編)

今日の夜にサークルのOB会があるのを忘れるところだった。危ない危ない。

……ところで文字を斜体にする機能に今気づいたんですけど、引用文はやはり斜字にした方がいんでしょかね?

機能としての引用(枠で囲む)は強調したいところにも使っちゃってますし。でも斜めだと読みにくいかな?

 

引き続き

哲学入門 (ちくま新書)戸田山和久、2014)

第五章 目的

の前半をやります。

 

哲学入門 (ちくま新書)

哲学入門 (ちくま新書)

 

 

第五章 目的

 前章の最後で「間違いうる表象を持つことができる利点」が問題となった。

 「間違いうる」とは「現実になりたっていない・いまそこにない」ということ、つまりこれから先のことを考える表象ということだ。そしてそれは一般に「目的」「目標」といわれる。

 「目的」の指す内容を整理することで、なぜわれわれは志向的表象を獲得するに至ったかを考える。

 

 

人間の特権性

目的手段推論

=目的(目標)を設定し、それぞれの行為の選択肢の帰結を考えた上で適切な行動を選ぶことのできる能力。

 

 「間違いうる表象」(志向的表象)はこの目的手段推論の為に役に立つものである。しかしこれは果たして人間に特有のスキルなのであろうか?

 本章では次の二点を仮説として考え、それを論証していく。

  • 目的手段推論のための能力も、より原始的な生命現象の延長としてある。
  • 目的手段推論の特権性は、その進化・発達のシナリオに照らすことではっきりさせることができる。

 

 

おしつ、おされつ

 デイビッド・パピノー(David Papineau)は生きもの認知デザインの進化を次の6段階に分けて辿ることを提案した(4以降は省略)。

  1. モノトマータ:単純な命令
    →「Rしろ」
  2. 機会主義者(opportunist):外部環境の条件付きの命令
    →「もしCならRしろ」
  3. ニーズを持つもの(needer):外部環境と内部状態の条件付きの命令
    →「もしCかつDならRしろ」

 

 第二・第三段階になると、認知メカニズムは(内外の)環境・状態から自然的情報を入手して自然的記号を作り出し、それを行動へのトリガーとして使っている。

→この自然的記号が「表象」

→「「表象」という語を使って行動を説明するのが適切で有益なレベルに達している」

 

 ここで二つの条件CとDについて考えると、

  • C=信念に似たももの、記述的・情報的
  • D=欲求に似たもの、指令的・モチベーション的

と考えたくなる。

→先の段階ではそうなるが、この段階では「共に記述的かつ指令的」。

 

 ミリカンはこうした原始的な志向的表象を「オシツオサレツ表象」と呼んでいる。

オシツオサレツ(pushmi-pullyu)表象*1

=「事実の記述」と「シチュエーションにふさわしい行動の指令」が表裏一体となり分かれていない表象。

 

 目的手段推論が成立するためには、このオシツオサレツの二つの表象面(記述面と指令面)が完全に分離され、再結合できるようになっていなければならない。

→表象の進化について考えることで、目的手段推論の進化について知ることができる。

 

 

「オシツオサレツ動物」の生態

 「記述的であると同時に指令的」という状況を表す別の概念に、「アフォーダンス」というものがある。

アフォーダンス(affordance)

=環境が動物に対して「意味」を与え、その行動を誘発させる性質。アメリカの心理学者ジェイムズ・ギブソンが導入した。

 

 ミリカンはこれを少し変更した「Bアフォーダンス」という言葉を使っている。

Bアフォーダンス(Blissful ~)

=とりあえずの最終目標が、たったひとつの記述面と指令面の重なりによって実現できるような場合のアフォーダンス

 

 用語の整理をしたところで、オシツオサレツ表象(≒アフォーダンス)だけで生きているオシツオサレツ動物なるものを想定する。

 「オシツオサレツ動物はなにができて、なにができないか」を考えることでよりどのような不利益を改善するために進化が進んでいったかを浮き彫りにする。

 

◯「行動解発因の連鎖」による「知的にみえる一連の行動の達成」

→生きものたちの中には、上述のBアフォーダンスが起こるような状況を導くため、さまざまな行動を起こしているものがいる。

 つまり、最終的な目標(例えば捕食)のために必要な行動はこれで、それを実現するためにはこうした予備行動が有効であり、その可能性を高める行動はこれで……という具合である。

→この連鎖により、オシツオサレツ表象を持つ生きものはかなり「知的」に見える一連の行動を成し遂げることができる。

 

×自分にできる行動の断片を「新しいやり方」で組み合わせ、「新しい目標」のための行動の連鎖を組み直し、達成する。

→あらかじめ組み込まれている複数の「行動解発因の連鎖」を、その結果をあらかじめ予想した上で再編集することができない。

 

×「自分が目標を達成したかどうか、いつ達成したかわかるようなコード化形式」で目標を表象する。

→環境の記述と行動の指令が常にセットであり、「"さっき"確認したから、"いま"これやっても大丈夫」ということができない。

 

→「使い道のない情報を"とりあえず"保持しておいて、いざというときにそれを使う」ことができるかどうかが人間とオシツオサレツ動物の最大の違い。

 

 

分離への第一歩

 両者の違いが分かったところで、この違いがどのようにして生まれてきたのかという進化のプロセスを考えていく。

 それはつまり「オシツオサレツ表象がさまざまな仕方で分節化し、それが新しい仕方で再結合されていくプロセス」である。

 

step1:既存のオシツオサレツ表象を分解し、再結合して「新しいオシツオサレツ表象」を作り出す(「対象の表象」の分離)

アフォーダンスを提供する対象を検出するために用いられる様々な表象は、分解されることで複数の利用の仕方に役立つようになる。

 

 注意すべきは「同じ対象を多くの目的のために認識できるようになること」

と「あらゆる実践的な用途から分離された純粋な事実の知覚」とは異なるという点である。

 新しく生まれたものは、あくまで「さまざまな指令適用とを持つ記述的表象」としての知覚である。

 

補足:このような補足を「準事実的表象」と呼ぶ。準事実的表象には他に「空間配置」と「時間的配置」がある。

 

 前半ではオシツオサレツ表象から純粋事実表象が分離していくプロセスの最初の段階までを確認した。次回以降はこれをさらに進めていく。

 

【今回の三行まとめ】

  • 「間違いうる表象」を持つことの利点は、目的手段推論に役立つことである。これこそが人間の特権的な能力だと考えられているが、それもあくまで原始的な生命現象の延長として位置づけられる。
  • 認知の段階を考えていくと、記述的/指令的な二つの表象を考えられる。原始的にはそれは表裏一体として不可分であり、これを「オシツオサレツ表象」と呼ぶ。
  • 「オシツオサレツ表象」から「純粋な事実の表象」(純粋に記述的な表象)が分離するプロセスを描くことが次の課題である。

 

【今回の宿題】

  • パピノーの「認知デザインの6段階」の補足

 

……軽めにこんな感じでいいでしょう。

 リズムが乱れてやりにくさもありますが、ぼちぼちペースを戻していきたいです。

 

それでは

 

KnoN(100min)

 

生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る

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アフォーダンス-新しい認知の理論 (岩波科学ライブラリー (12))

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*1:もとは児童文学の「ドリトル先生」シリーズに出てくる、胴体の前後にそれぞれ頭がついた動物に由来する。「オシツオサレツ」という訳語をあたえたのは井伏鱒二らしい。