談話と対話 その1
(書くことが思いつかなかった)
集中読書期間の2冊目、
談話と対話 (言語と計算)(石崎雅人ほか、2001)
をやります。
まずは
第1章 談話と対話の計算論的研究
第2章 言語使用の基礎理論
まで 。
第1章 談話と対話の計算論的研究
◯コミュニケーションには社会の変化に関わるようなマクロなレベルから日常の会話行為に関わるようなミクロなレベルのものまである。
- マクロ・レベル:ネット上での匿名性、ショートメッセージによる会話、マスメディアの双方向性、など
- ミクロ・レベル:話し手の交代、質問と応答の関係、話の構成、など
◯研究上の方便として個々の行為主体を非常に単純化して扱うことが多いが、コミュニケーションの本質を理解するためには各主体の内的なプロセスを細かく見ていく必要がある。
◯本書ではミクロレベルのコミュニケーションについて、「なんらかの計算主体を念頭において、様々な問題を定式化しようとする(=計算論的)」アプローチについて述べる。その際、コミュニケーションの典型として「談話」と「会話」をその対象とする。
第2章 言語使用の基礎理論
言語をコミュニケーションの手段として捉えると、ある言語的・社会的文脈の中で主体がどのように言語を用いるかが考察の中心となる。それには「発話とはどういう行動か」「発話によって何かが「伝わる」とはどういうことか」「伝わる仕組みはどうなっているのか」というテーマが含まれる。
◯オースティンの言語行為論においては、言語は主に行為遂行的な性質を持つ。言語行為の適切な遂行のためにはいくつか必要な条件があるとされる。
言語には事実確認的な性質と行為遂行的な性質がある。
- 事実確認的(constative):状況や事象の記述、真偽が主題
- 行為遂行的(performative):なんらかの行為を行っている
行為としての発話には次の3種類が含まれる。
- 発語行為:一定の言語音を、文法的に適切に、ある程度明確な意味を持って発する物理的行為として
- 発語内行為:慣習によって外部に効力(「発語内の力」)を持つ行為として
- 発語媒介行為:発話の結果として惹き起こされる行為として
言語行為の適切な遂行のためには、いくつか満たさなければならない条件がある。
言語行為遂行の適切性条件
- 手続き存在条件:一般に受け入れられた慣習的な手続きがある
- 適当性条件:その手続きが場や参与者にとって受け入れられるものである
- 正常実行条件:その手続きは、すべての参与者によって正しく実行される
- 完全実行条件:その手続きは、すべての参与者によって完全に実行される(やり遂げられる)
- 態度随伴条件:その手続きを実行する人物は、「やろう」という意図をもって行う
- 履行条件:その人物は、実際に「やろう」と思った通りに行動する
→適切性条件が満たされない場合、行為が遂行されない(=不発)、適切でないやり方で行われる(=濫用)というエラーが起こる。
発語内行為における「発語内の力」は遂行動詞を用いることにより明示的な形に変形することができる。遂行動詞の分類に基づき、発語内行為自体を次のように分類できる。
発語内行為の5類型(オースティン)
- 判定宣告型:なんらかの証拠・理由に基づく判定の行使
- 権限行使型:影響力の行使・主張
- 態度表明型:他人の行動に対する一定の態度の表明
- 言明解説型:理由・議論・伝達作用の明確化
◯サールはオースティンの理論を分析的に再構成し、発語内行為の遂行のためには構成的規則に基づく5つの条件が必要かつ十分であるとした。またそれをもとに発語内行為を5種類に分類し直した。
発語内行為遂行の5条件
- 正常入出力条件:言語能力全般に欠陥がないことを規定する
- 命題内容条件:発話の命題内容に制約を与える(←?)
- 準備条件:行為を遂行する前提となる能力・知識・状況を規定する
- 本質条件:行為がどのようなものとしてみなされるか規定する(←?)
- 誠実性条件:話し手が保持すべき信念・意図・感情を規定する
これに「発語内の目標」「適合の方向」という観点を加えることで発語内行為を次のように分類できる。
発語内行為の5類型(サール)
- 主張型
- 指図型
- 行為拘束型
- 感情表出型
- 宣言型
◯グライスは「伝わる」内容を自然的意味と非自然的意味(話し手の意味)に分類した。後者の性質に注目することで「伝わる」条件を次のように整理することができる。
「伝わる」条件
- 話し手Sは、発話uが聞き手Hにある特定の反応rを起こすことを意図する。
- Sは、HがSの意図1を認識することを意図する。
- Sは、Hによる意図1の認識が、Hが反応rを起こす理由(の少なくとも一部)になることを意図する。
◯グライスは会話における協調の原則を提案した(それは4つの格率からなる)。その原則をあえて破ることにより、「会話の含み」を表現することができる。
協調の原則
会話の中で発言するときには、それがどの段階で行われるものであるかを踏まえ、また自分の携わっている言葉のやりとりにおいて受け入れられている目的あるいは方向性を踏まえた上で、当を得た発言を心がけるようにすべきである。
協調の原則を満足させるための具体的な格率(maxim)は次の4種がある。
協調の格率
- 質の格率:真なる発言を行うようにする
- 量の格率:当面の要求に見合うだけの情報を与えるようにする
- 関係の格率:関連性のあることを言うようにする
- 様態の格率:わかりやすい言い方をする
話し手が発話pによって、明示的に言わなかったことqを含みとするためにには、以下の条件と聞き手の知識が必要となる。
「会話の含み」の成立条件
- 話し手は、協調の原則および諸格率を遵守している
- 話し手は、発話pと条件1を両立させるために、qを想定している
- 話し手は、聞き手が条件2の想定を計算できると考えており、さらに話し手がそう考えていることが聞き手にもわかると考えている。
聞き手に求められる知識
- 協調の原則および諸格率
- pの言語的意味
- pの言語的文脈
- 背景知識
- 聞き手と話し手が知識1-4を共有している、という知識
「会話の含み」は次のような特徴を持つ。
「会話の含み」の特徴
- 破棄可能性:文脈によって取り消すことができる
- 分離不可能性:基本的に発話の意味ないように関係しており、表現を変えることによっては含みをなくすことはできない
- 計算可能性:含みは上記の成立条件1-3と知識1-4が満たされる場合、計算することができる
- 非規約性:特定の単語や表現に結びついているものではない
- 不確定性:計算の過程で必要とされる想定には様々なものがあり、一意には決定できない
【今回の宿題】
- 「命題内容条件」をうまく説明できない。というか、「発語内行為遂行の5条件」全体を自分の言葉で言い換えることができない。
- 「自然的意味/話し手の意味」がうまく定義されていない。
- オースティンの議論に対するサールの議論の位置付けがはっきりしない。
……まとめなおしてみると第2章の内容が盛りだくさんすぎた。第1章〜第4章と第5章〜第7章で前後編にしようと思っていたが、とても一記事に入れきれないので三分割にすることにする。
全体的に「感覚では納得できるけどスパッと説明出来る言葉が見つからない」もどかしさがある。厳密な定式化が求められるのが計算論的アプローチだが、丁寧すぎて多少まどろっこしい。
予定からはかなり遅れているが、それだけ充実しているということなので前向きにやっていこう。
KnoN
- 作者: 田窪行則,三藤博,片桐恭弘,西山佑司,亀山恵
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1999/03/25
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
*1:つまり「1人の話者が連続して発話する場合」を含んでいる。