KnoNの学び部屋

落ち着きのない大学院生が専攻に関係ない(むしろそっちのけで)学んだコトを記録しておく場所

インタラクションの理解とデザイン

今日が貸出期限の最終日なのです。

 

3冊目、

岩波講座 現代工学の基礎 インタラクションの理解とデザイン 《情報系Ⅶ》(西田豊明、2000)

をやります。

詳しく解説するのは主に1,2,3章。

 

インタラクションの理解とデザイン (シリーズ 現代工学入門)

インタラクションの理解とデザイン (シリーズ 現代工学入門)

 

 

1 インタラクションのとらえ方

 ◯インタラクションとは人間主体・人工システム・環境の間の相互の働きかけのことである。「メディアとしての人工システム」を理解し、デザインするための中心的な概念として位置づけることができる。

 

 人工物・人工システムは「人間の能力の拡張」として考えられる*1。近年のコンピュータ技術の発達により、人間の精神活動でさえも(その一部を)代行できるほどになってきている。

→インターネットなどの情報ネットワークは、人間と人間のコミュニケーションを媒介するメディアとしての役割を持つに至っている。また家電のスマートフォン連携など、人間と人工システムとのコミュニケーションもコンピュータを介して行われつつある。

コンピュータに媒介されたコミュニケーション

→「メディアとしての人工システム」を理解し、デザインするためにインタラクションという概念を設定すると良い。

 

 インタラクションはコミュニケーションを包摂するより大きい概念である。

→意図の伝達(=コミュニケーションの成功/失敗)という観点は、インタラクションにおける一つの側面にすぎない。

→「インタラクションによってなんらかの変化が起こった」ことが重要。意図の伝達の成否条件などへの問いは留保することができる

 

 人間は自らの柔軟性により、単純な内部構造の人工システムとも「会話」することができる。

→イライザ*2は相手の発言をパターンとして変換して返答を生成する素朴なシステムであるが、外から見ている限りでは十分に「会話」が成立しているように見ることができる。

内部での処理方法が少々手荒でも、人間の優れた情報解釈がそれを補う。スタンフォード大学社会心理学者ナスとリーブズのメディアと実態の混同(media equation)*3は、人間がメディア表現と実態を表層では区別できるが深層では混同しがちであるということ指摘している。……これは、人間以外のものを無意識のうちに人間とみなす擬似対人行動(ethopoeia)の一種であるという観点からとらえることもできる。

 

⇒人間の情報解釈力を利用し、「静的な環境に散りばめられた情報を、適切なタイミングで適切に獲得する」ように誘導することはできないだろうか。これが可能になれば公共空間の使い方をいちいち言葉で説明する必要はなく、「空間と対話する」と言えると思うのだが。

 

2 インタラクションのモダリティ

◯インタラクションによってやりとりされる情報の表現様式(モダリティ)は、使用される表現メディアによって異なる性格をもつ。それらは言語系メディアと非言語系メディアに大別される。

 

→インタラクションのモダリティの分類は、他にもゲシュタルト心理学における図(figure)/地(ground)の対比や、ポラニーによる形式知/暗黙知の対比などがある。

 

 言語系メディアの話については『談話と対話』にかぶる部分が多かったので省略。

→オースティンの言語行為論、物語性、メタファー

 

 ヴァーガスは非言語メディアを9種に分類した*4

  • 人体:身体的特徴からの読解
  • 動作:表情、ジェスチャー
  • 目:アイコンタクト、目つき
  • 周辺言語(パラ言語):口調、声量、テンポなどの話し方全般
  • 沈黙:会話の「間」や無視
  • 身体接触:スキンシップ
  • 対人的空間:「間合い」の取り方や、会議室の机の置き方など
  • 時間:発話への割り込みのタイミング、生体リズム
  • 色彩:環境に含まれる色

→これらは大きく3つのモダリティに整理できる。

  1. 視線と表情:感情表出動作としての表情、見る(look)と眺める(see)、会話中での視線のコントロール
  2. 身ぶり:表象動作(言語的身ぶり)、模写的身ぶり、相互交渉的身ぶり、言語調整動作
  3. 対人空間:パーソナルスペース、プロセミックス*5

 

3 インタラクションの認知行動モデル

◯インタラクションに関する理解を深めるためにはモデル化が有効である。情報処理モデル、生態学的モデル、社会的モデルなどのアプローチがある。

 

◯人間の情報処理モデルは、人間の認知過程を情報処理メカニズムの面からモデル化し、コンピュータ(人工システム)とどのようにインタラクションしているかを記述する。

 

 次の3つのモデルが代表的である。

◇ノーマンの「へだたり(gulf)」モデル

 ノーマンは人間の行為の構造を説明するものとして「行為の七段階モデル」を導入し、その過程における「実行」と「評価」でのへだたりがエラーを引き起こすと考えた*6

行為の七段階モデル

  1. ゴールの形成:どのような結果を求めるか
  2. 意図の形成:そのためにどういう方針をとるか
  3. 行為の詳細化:具体的にどのようなことをするか
  4. 行為の実行:-
    ↓ 実行のへだたり
  5. 外界の状況の知覚:(行為の結果として)外界に何が起こったか
  6. 外界の状況の解釈:起こったことの意味は何か
    ↓ 評価のへだたり
  7. 結果の評価:当初の目的(ゴール)は達成されたか

 

→「へだたり」モデルは規範的な説明としてはわかりやすいが、日常生活に見られる認知行動はこのような逐次的なものではないと、直感的には考えられる。

→知覚と行動の間にはもっと直接的な連携があるのではないか?

 

 

ラスムッセンの「制御の意思決定」モデル

 このモデルにおいては、人間の行動は次の3つのレベルから構成される。

  1. 技能に基づく行動:パターン認識からの自動処理
  2. ルールに基づく行動:蓄積されたルールを参照しながらの処理
  3. 知識に基づく行動:行動計画を一から策定して処理

→人間の認知過程は多層的であり、ロボット制御における包摂アーキテクチャ(subsuption architecture)と共通の発想にある。「粗く速い下位機構」と「緻密で遅い上位機構」の相互作用によって知的な行動が創発される。

 

ミンスキーの「心の社会」理論

 人間の心を「相互作用するエージェントの集合」としてモデル化する。

→相互作用の中でここのエージェントはその活性度を上下させ、活性度の最も高いエージェントが人間の行動を主導すると考える。

 

生態学的モデルでは、情報処理を行う人間の側からではなく、人間を取り巻く環境に着目し、環境がその中の生活者である人間にどのような情報を提供しているかを分析する。

 

……環境が生活者に提供する情報は、生活者がもつ知覚能力に依存し、生活者ごとに異なる。

 環境に絶対的に存在する物理的な性質を分析するのではなく、生活者との間の関係性から環境に関わる情報がどのように生じ、生活者がその情報をどのように獲得し、行動に結びつけるかを解明することを試みる。

(改行、強調は筆者)

 ……行動に必要な情報は必ずしも駅の構内に明示的に表示されているわけではなく、環境の中の様々なところに存在している。人の流れや目立つものなどをよく注意して観察すると、自分がどのように行動したらよいかだんだんわかってくる。

 たとえば、切符を買うときや乗車するときの列に並ぶためには、入り口や窓口の場所を見つけて、その周囲を見渡し、列を作るための表示やロープがあるかどうかを探せば良い。どこかに列があればそこに並んでいる人々の様子から、列の末尾がわかる。

(改行は筆者)

 

 このような「行動の手掛かりとして環境から獲得することのできる情報」をアフォーダンス(affordance)*7という。

アフォーダンスは主体と環境の関係から決まる。

 環境の中の生活者がいろいろな動き(=微小行為)をしても変化しない「何か」を不変項(invariant)といい、これが行動の基準となる。

 触れたり、振ったり、叩いたりという積極的な行動によって不変更を獲得するための動作をダイナミック・タッチという。 

 

※「社会的モデル」については、ボリュームと自分の関心との距離のバランスから考えて今回は省略します。結構面白いことも書いてあるよ。

 

4 インタラクションのアーキテクチャ

省略。デザインのための基本的な概念や具体的な技術について。

5 インタラクティブなシステムの開発

省略。システム開発の方法論について。

6 インタラクションの研究に向けて

省略。インタラクションは現代においていろんな分野で大切だよ、インタラクションを扱う情報学はそれ自体がインタラクティブだよ、みたいなことを。

 

 

【今回の宿題】

  • 静的な環境とのインタラクションはどこまで研究が進んでいるか

 

……今回はたくさん注釈をつけました。典拠となる参考文献だけでなく、このブログの過去の記事からも関連した内容をリンクさせています。なんとなく知が体系化されていくのを実感できたかもしれない。

 自分のテーマである「利用者と建築空間の関わり」については生態学的モデルのところで説明されているものとほぼ同じ発想であると言えます。しかし「そこにある環境」だけでなく、その奥にある「デザイナーとの対話」としてみている部分が少し踏み込んでいるといえるでしょうか。要するに建築空間をプロダクトとしてみて、そのデザインの方法論を適用するということなのですが。あくまで「人と人」の関わりがメインだと位置付けています。

 5000字も見えてくるような大作は結構久々で疲れました……。

 

それでは

 

KnoN(180min)

 

人は見た目が9割 (新潮新書)

人は見た目が9割 (新潮新書)

 

 

*1:現代思想の教科書 その9 - KnoNの学び部屋

現代日本のコミュニケーション研究 その6(前編) - KnoNの学び部屋 第3章

*2:哲学入門 その1(前編) - KnoNの学び部屋

*3:人はなぜコンピューターを人間として扱うか―「メディアの等式」の心理学(Byron Reeves and Clifford Nass, 2001[1996])

*4:非言語(ノンバーバル)コミュニケーション (Marjorie F. Vargas, 1987[1986])

*5:かくれた次元(Edward T. Hall, 1970[1966])

*6:誰のためのデザイン? その1 - KnoNの学び部屋

*7:アフォーダンス概念を初めて提唱したのはギブソン

生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る(James J. Gibson, 1985[1979])

日本では佐々木正人が第一人者。

アフォーダンス――新しい認知の理論 佐々木正人、1994)

 

このブログでもたびたび取り上げてきた。

誰のためのデザイン? その3 - KnoNの学び部屋

哲学入門 その5(前編) - KnoNの学び部屋

ただしノーマンの使い方はギブソン本来の定義から少し離れた「創造的誤読」とも言えるようなものであり、最近は「シグニファイア」という用語を導入しているようなので注意が必要。

参考 アフォーダンスとシグニファイア - A Day In The Life

また『哲学入門』での記述は、ミリカンが導入した「Bアフォーダンス」という、これまたちょっと違う概念なのでこちらも注意。