現代日本のコミュニケーション研究 その2
ちょっと頭が痛い。
引き続き
現代日本のコミュニケーション研究(日本コミュニケーション学会、2011)
の
第Ⅱ部 組織コミュニケーション
をやります。
第1章 組織コミュニケーション研究の経緯と動向
組織コミュニケーション学は、1920年代のアメリカでスピーチコミュニケーションの一分野として生まれたと言われている。歴史は古くなく「組織論」や「経営学」の学問的体系が確立してくる時期と一致している。
- 1900~1940頃:準備時代
- (1938~1942:過渡期)
- 1940~1970頃:学問的位置づけの確認と統合の時代
- 1970~1980年代:成熟と変革の時代
→情報処理、レトリック、文化、政治という新しい研究視点 - 1990年代:多様化と学際化の時代
→組織コミュニケーション学は社会科学の分野において比較的若い学問であると同時に、そのアイデンティティ(ディシプリン、パラダイム、研究法)などは発展の途上にあり確立していない。
組織コミュニケーションの研究アプローチは次の5つが挙げられる。
- モダニストアプローチ=組織の中のコミュニケーション現象を「要因」と「結果」の関係で捉えようとする。
- 自然主義的アプローチ=コミュニケーション現象が成員の相互作用によってつくられていくプロセスを記述する。
- クリティカル・スタディ=組織(管理者)と成員を対立的に捉え、そのメカニズムを解明する。
- 解釈学的研究=組織内部のコミュニケーションにおける意味づけが、その組織特有の理解として解釈されるプロセスを研究する。
- ネットワーク視点=組織を一つの群と捉え、そこに生まれるネットワークに注目する。
→このような切り口から様々な研究トピックが立てられているが、「構造としての組織コミュニケーション」と「対人関係中心の組織コミュニケーション」に大別することができる。
第2章 組織コミュニケーションの量的研究
量的研究
=科学的手法を用いた客観的研究。コミュニケーションの過程を数量化により理解し説明しようとする手法。実証主義*1に基づく。
→信頼性と妥当性の明確な基準に従い、組織コミュニケーションの過程について体系的な説明を提供しうる、とうのが利点。
量的研究の手法としては次のようなものがある。
- 実験=統制された環境の元で、研究者が独立変数を操作し、異なるグループ間での従属関数の違いの有無を検証する。
- 調査(サーベイ)=対象者から直接情報を得る。質問紙(アンケート)、面接(インタビュー)などの情報収集方法、ネットワーク分析などの分析方法がある。
- 量的なテキスト分析=文章・テキストを対象とし、それらを定量的にコード化して分析する。インターアクション分析、内容分析などがある。
第3章 組織コミュニケーションの質的研究:組織ディスコース
組織コミュニケーションの質的研究アプローチの一つとして組織ディスコース研究(ODS ; Organizarional Discourse Studies)が注目されている。
→ODSの重要なパラダイムとして社会構成主義がある。組織を言説的な構成として捉え、この社会的構築過程の特定の側面をデータとして取り出し、文脈との関連の中で分析する。
ディスコース(discorse)
=社会的な対象を現実に至らす記述・相互に関係するテクストのまとまり
相互言説性
=日常世界では時間的に先行した言説が現在のコンテクストとして再コンテクスト化され、これと関連しながら次のディスコースを生みだす、という考え方
意味交渉
=意味の理解は、言説の実践の中で交渉されながら相対的に理解される
→ディスコース分析はそのコンテクストに大きく依存する。
依拠するコンテクストの広がりによって「大文字のディスコース Discorse」(=歴史的社会的な常識のレベル)と「小文字のディスコース discourse」(=ローカルなグループでの常識のレベル)を使い分けることがある。
組織ディスコースの研究は多岐にわたるが、3つのアプローチに分類することが出来る。
- ミクロなアプローチ=「小文字のディスコース」の諸研究。特定のコンテクストにおいて、行為者がセンスメイキングする自然発生的なテクストを綿密に分析する。会話分析、言語行為論、フレーミングなど。
- マクロなアプローチ=「大文字のディスコース」の諸研究。歴史的文化的文脈の中で形成された常識的知識を、歴史的な記録や文書といったアーカイバルなデータから綿密に分析する。
- マルチレベルのアプローチ=大小双方のディスコースの視座を包含する諸研究。批判的ディスコース研究、組織レトリックなど。
ODSにおける最も大きな課題はそのパラダイムに関する議論である。
- 社会構成主義と批判的実在主義の論争
→極端な社会構成主義がもたらす過度な相対主義と認識論偏重を批判し、適度な社会構成主義を保ちながらも存在論的側面を強調して社会構造などの実在を呈示する議論がある。 - 新しい批判的パラダイム
→従来フーコーのパラダイムに依拠することが多かったが、より政治的な立場からのネオマルクス主義的アプローチや、ラカン派組織論のアプローチが提案されている。
【今回の三行まとめ】
- 集団の中のコミュニケーションを考える分野として組織コミュニケーション研究がある。「モダニスト」「自然主義」「クリティカル」「解釈学」「ネットワーク」などのアプローチ方法があるが、いずれも「構造としての組織」か「対人関係としての組織」としてみるかに大別される。
- 実証主義的な量的研究としては、「実験」「サーベイ」「量的なテキスト分析」などの手法がある。
- 質的研究の一つとして注目されているのが組織ディスコース研究である。相互言説性・意味交渉の考え方の元で「大文字のディスコース」「小文字のディスコース」に分類され、それぞれに着目したアプローチがある。
【今回の宿題】
- 社会構成主義の発想を詳しく
- 相互言説性・意味交渉を詳しく
……組織コミュニケーションそのものは少し自分の関心から外れるが、研究全般の考え方が分かりやすくまとめられていて参考になった。組織ディスコース研究についてはもう少し詳しく調べてみれば有用かもしれない。
それでは
KnoN(90min)