哲学入門 その0
湿度のせいで前髪のうねり具合がとんでもないことになっています。
湿った天気も六日目なんで、そろそろ晴れて欲しいですけどね。
今回からは
哲学入門 (ちくま新書)(戸田山和久、2014)
をやっていきます。
「情報とは何か」「認知とは何か」を考えるのが主な目的。
文章のノリは軽いですが考えていることは本格的です。
まずは
序 これがホントの哲学だ
から。
序 これがホントの哲学だ
哲学の中心主題
◯「ありそでなさそでやっぱりあるもの」を考える。
→意味、機能、情報、目的、価値、道徳、ect……
→「唯物論」の立場に立ちながら、このような「ありそでなさそでやっぱりあるもの(「存在もどき」)」を世界観の中に位置づけることが哲学の目的。*1
=世界は物理的なものだけで出来ており、そこで起こることは物理的なもの同士の物理的な相互作用に他ならない、とする立場。
存在もどき
=「日常生活を営む限り、あるのが当然に思われるが、科学的・理論的に反省するとホントウはなさそうだ、ということになり、しかしだからといって、それなしで済ますことはできそうにないように思えてならないもの」
→著者の造語?
◯「存在もどき」をどのように考えるか?
→科学/哲学(orより広く人文学)の二元論では不可能。
→特に科学の発展により、科学的な考え方で哲学(人の精神的な現象)について説明することが可能になったため。両者の垣根がなくなった。
→例:怒りっぽい人について、旧来は「そういう性格だ」とされていたものが「脳内ホルモンのバランスがおかしい」というような科学のタームで説明可能になっている。
→唯物論の立場から、一元的に「存在もどき」を世界の中に描き込むアプローチ。
哲学の課題を具体化する
◯「唯物論の立場から「存在もどき」を世界観の中に位置づける」という課題設定は抽象的で、取っ付きにくい。
→そもそも哲学は「どのように問いを立てるか」が重要となる。
→3つの代表的な戦略を紹介し、その中で特に第三の戦略を採用して考えていく。
1. 存在もどきはなんらかの物理要素に対応し得る(還元主義)
=「存在もどき」の正体をあくまで何らかの物理要素として、物理的対応物をし当てようとする試み。
→例:「熱」の正体は物質を構成している分子の振動
×しかし二つの点で充分ではない。
- 「意味」という存在もどきはその都度何らかの異なる物理的な状態で実現されてており、それを特定するためにはより抽象度が高いレベルで定義されなければならない。
→例えば「バナナ」について考えているとき、脳内で特定の神経細胞が反応している現象と、コンピュータの中で特定の電子的状態が発生している状態が、共に「バナナを意味する」ということとして対応してしまっている。 - その存在もどきの「存在の理由」を説明できない。
2. 存在もどきは、その観点に応じて現れてくる
=実在するのは物理的なもの・物理的相互作用(とそれらを統御する物理法則)だけであるが、システムが複雑になるとその振る舞いを記述・予測するのに機能・目的・意味といった存在もどきをふくむ「システムの見方のレベル」が有効になってくる、という考え方。
×こうした考え方は「意味はわれわれの恣意的な見方の産物・われわれが自然界に押し付けているもの」という考え方と紙一重。
→唯物論の立場が徹底されていない。
3. 存在もどきはわれわれのシステムの進化に伴って生じてくる(発生的観点)
=当初は存在しなかったが、生命のシステムが複雑化するにつれて適切な観点が現れてくる、という見方。
→「第二の戦略」のように任意に切り替えが出来るものではなく、進化する自然の側からわれわれにこのようなレベルで考えるように要求してくる、と考える。
→「心的表象能力の進化」がそのような観点の発生を可能にした。
表象(Representation)
=自分以外の何かを頭の中にイメージとして持つこと。
本書の構成
◯「表象の進化」を話の縦軸とする。
→始めに、心的表層の存在を前提として「意味」「機能」について考える(第一章、第二章)
→次に、主体者の存在を前提としない状態からどのように表象が立ち上がるかとして「情報」「表象」について検討する(第三章、第四章)
→前半の議論を踏まえて、存在もどきの具体例である「目的」「自由」「道徳」を位置づける(第五章、第六章、第七章)
→仕上げとして「人生の意味」について考え直す。
◯「存在もどき」について考えるのは誰だ?
→哲学者がラフ・スケッチを描き、科学者がそれを実証的に検証していく過程(自然主義)が必要。
=科学的知見・方法を用いながら哲学し、哲学説もまた科学によって反証されることを認める立場。科学の一部として哲学を行っていく立場。
◯まとめると、本書は唯物論的・発生的・自然主義的観点から考える『哲学入門』である。
【今回の三行まとめ】
- 意味・情報・価値などの「存在もどき」を唯物論的に世界に位置づけていくのが哲学の目的。
- そのための戦略は大きく3つ考えられるが、本書では特に発生的な見方を重視する。
- 哲学が構想し、科学が検証するという自然主義的な態度が現代の哲学には必要。
【今回の宿題】
- 「第二の戦略」と「第三の戦略」の違いの明確化
……迷いましたが、結局次のテキストはこれにしました。初回なので軽めに。
平田オリザの『わかりあえないことから』にしようかと思っていましたが、トピックとしては非常に面白いものの自分の関心から見ると具体的過ぎるような気がしまして。
前回の『ロラン・バルト』とは文章のテイスト(エクリチュール?)が違いすぎて少し戸惑いを感じますが、直に慣れるでしょう。
ページが多いので全部やるかは分かりませんが、とりあえず第四章まではやることにします。
それでは
KnoN(60min)
*1:無論、これとは異なる哲学の定義も考えられるが、本書はこういうスタンスて哲学を取り扱う。